森林は、木材としての利用だけでなく、CO2を吸収するとともに、土砂災害の防止や生物多様性の保全など、森林そのもののさまざまな価値が再認識されています。日本は、国土の3分の2を森林が占める世界有数の森林国で、戦後各地に植林された木が、伐採に適した時期を迎えています。しかし、1980年には約14万人以上を数えた林業従事者は、近年では約4万人と大幅に減少しており、適切に整備できない山が増えてきています。
「競走馬のふるさと」として知られる北海道新ひだか町。 海岸線から広大なサラブレッドの牧場が広がりを見せますが、総面積の84%を占めるのは、日高山脈に連なる豊かな森林地帯です。その一帯の森林整備を担っているのが、有限会社高野林業です。高齢化や後継者不足により地域の林業従事者が減少するなか、安全性や生産性を高めつつ、持続可能な森林整備をめざしています 。
「じいちゃんが育てた木のように、太さが揃ってしっかりした木を育てたい」
幼い頃に祖父と 巡った山々を次世代につないでいく、高野林業のサステナブルストーリーをご紹介します。
地域の森林資源を持続していくために
森林がさまざまな価値を発揮するためには、植栽や保育、間伐などを適切に行い、健全な森林を造成する必要があります。特に、人工的に作られた森林は、成長に伴い木々の間隔が狭くなり、日光や養分が十分に行き渡らなくなってしまうため、間伐が欠かせません。しかし、日本の山は複雑な地形が多く急峻で、人が作業を行うには危険が伴います。
高野林業では、なるべく人が直接行う作業を減らし安全性を高めつつ、生産性を上げて地域の森林を適切に整備したい、という思いで早くから機械化を進めてきました。伐倒して、枝を払い、切断して丸太を生成し、トラックに積み込むといった一連の作業を機械で行います。機械の導入により、生産性が高まり、さらには作業中のけがも減少し、安全面での効果も得られています。
自然と向き合う林業ならではの「やりがい」
「機械がどんどん進化しているので、できることが増えています。林業には、こんな面白い機械があって、こんな世界があるんだ、ということを知ってもらいたい」と話すのは、副社長の高野哲臣氏。地域の林業事業を持続的に発展させていくために、若い担い手づくりに力を入れています。
急な勾配で、地盤も不安定な現場での作業は危険が伴うため、機械の操作はもちろん、どこに機械の足場を作るか、どこに木を倒せば安全で効率が良いかなど、現場全体を見通せる経験がものを言います。難しい現場こそ、整備が完了した後の達成感が大きく、従業員それぞれに「自分で手入れしたい山」の目標があるそうです。そのために、日々の作業を共にしてスキルを積んでもらい、やりがいを実感してもらえるようサポートする体制が自然に引かれていたというのは、社風からも感じ取れます。
また、SNSを活用した林業作業の発信やインターンの受け入れ、園児向けのキノコの菌打ち体験など、林業を知ってもらうきっかけづくりを積極的に行っています。