ザンビア北西部に位置するカンサンシ銅・金鉱山。2024年6月、ファースト・クォンタム社と日立建機は、この鉱山でフル電動リジッドダンプトラック(以下、フル電動ダンプトラック)の実証試験を始めた。実際に稼働する鉱山現場で、積載量150t以上の超大型ダンプトラックの実証試験を行うのは世界初*の試みだ。ダンプトラックが効率的に走行すること、温室効果ガスの排出量を今後何年にもわたって抑制することは、鉱山運営にとって最重要課題だ。
*2024年6月27日現在、建設機械メーカーが積載量150t以上の超大型ダンプトラックで行う実証試験が対象。日立建機調べ。
鉱山を運営するファースト・クォンタム社は、採掘のみならず、地域社会の活性化や環境保護にも力を入れている。その理由について、発掘業務マネージャーのリースはこう語る。
「世界は再生可能エネルギーに舵を切っている。銅を生産する我々も例外ではない。持続可能なやり方で社会や環境に貢献し、未来に良い影響をもたらしたいんだ」
ザンビアの電源は再生可能エネルギーが92%を占める。水力発電に加え、今後は太陽光、風力、バイオガスなどへと拡大される見込みだ。電気自動車の部品を始め、脱炭素社会の実現に銅は欠かせない。ザンビア政府も今後数年間で銅の生産量を3倍にするという目標を掲げている。
「このプロジェクトが成功すれば、その目標を達成できる」とリースは言う。
トロリー充電式を採用したフル電動ダンプトラックは、架線から直接給電する。充電のために停車をする必要がなく、バッテリー搭載量を抑えられるため積載量の最大化にも寄与。稼働率を上げることで鉱山での生産性を大幅に向上させられるからだ。
実証試験が開始されてから数ヶ月。このプロジェクトに参加する彼らの目に、フル電動ダンプトラックはどう映っているのだろうか。
「より速く、より効率的に移動できるから、ディーゼルトラックの使用を減らせるし、炭素排出量の削減に貢献できる。他に類を見ない、本当に素晴らしいシステムだよ」そう語ってくれたのは主任技師のジョージだ。また、鉱山整備管理者のグレゴリーは、作業員の安全性も確保できるとつづける。
「トラックのオペレーターや周りにいる作業員は、常に騒音にさらされているから危険を察知するのが難しい。でも、エンジンのないフル電動ダンプトラックなら、小さな物音でも聞き逃すことがない。おかげで安心して作業ができるんだ」
「このフル電動ダンプトラックが成功すれば、誰もが購入したいと思うだろうね。間違いなく、世界がこのプロジェクトに注目しているよ」
機械管理責任者であるシャールも自信を覗かせる。
ファースト・クォンタム社と日立建機とのパートナーシップは今から12年前、トロリーアシスト技術の開発にお互いが協力したことがきっかけで始まった。
「この技術のおかげで、坂道を登る速度を大幅に向上させることができた。その結果、燃料消費量は減り、エンジン寿命は延び、CO₂排出量の削減にもつながったんだ」とリースが当時を振り返る。
以来、2社のパートナーシップは強固なものとなり、今回の実証試験へとつながった。
「日立建機と我々は、経営理念や文化が非常に似ているんだ。常にテクノロジーの進歩を推進し、改善に努めているところがね」とリースが微笑む。
「昨日の成功は今日何ができるかのベンチマークに過ぎない」とグレゴリーが言うように、彼らは過酷な環境でも決して諦めない。
実証試験はつづく。カンサンシにあるトロリーアシストラインは今後12ヶ月で2倍、5年間で3倍に拡大される見込みだ。これは、ファースト・クォンタム社の現在の事業計画に基づいた展望である。
「このイノベーションが前進し、我々が持っているものすべてをアップグレードしていくところを見たい」とジョージは語る。それはリースの思いと一致している。
「フル電動ダンプトラックは業界にとって非常に革新的なものだからね。この実証試験に参加できること、日立建機とともにテクノロジーの進歩に挑戦できることを心から嬉しく思っているよ」