特集 - 新世代の革新力、現場を変える
特別座談会:新世代が切り拓く、土木建設業の未来
土木建設業が今直面している大きな課題、「人材の確保」――。魅力ある現場を次世代につなげるために、どう変わっていく必要があるのか。
日立建機とパートナー企業、そして関連業界の若い皆さんが語り合いました。
文/三上美絵 撮影/榊 美麗
手軽に扱えるスマホでICTの導入を加速
――土木建設業の人手不足を補い、生産性を上げるため、国はICT施工や3次元データの活用を促す「i-Construction」を掲げています。お客さまのICT建機への関心度や導入状況はいかがですか?
沖田 i-ConstructionをはじめとしたICT施工への取り組みは、導入に積極的なお客さまと慎重なお客さまの二極化状態にあります。今は各建設機械メーカーもICT建機に加えて、ソフトウェア、測量機器など施工プロセス全体を通した提案に力を入れています。ICT化の環境は整ってきているといえます。
柿本 かつては建設会社が保有する建設機械に、私たちのような会社がシステムを後付けしていました。ここにきてi-Constructionが急速に進展しているのは、土木建設業のお客さまと距離の近い建設機械メーカーが、ICT化に本腰を入れ始めたからだと思います。
平山 先進的なお客さまは、ICT施工やi-Constructionが広まる以前から、3次元化の取り組みを始めていました。そうした会社は、社内の雰囲気も良く、若い人もいきいきと働いている印象です。
――ICTの活用を阻む壁としては、何があるのでしょうか?
沖田 本格的に活用するには、知識を持った人材を確保し、ソフトウェア、測量機器、ICT建機をそろえないといけません。生産性向上や効率化という面で導入効果は高いものの、初期投資がかかることがハードルになっています。
谷村 お客さまから「うちはPC使えないから」と言われることも多いです。そのため日立建機では「Solution Linkage Mobile」のようなスマホやモバイル端末で簡単に扱えるシステムの開発に力を入れています。
松崎 私はスマホを使って盛土の体積を量る3D計測アプリ「Solution Linkage Survey」の開発に携わりました。身近にあるもので操作でき、作業の効率化に役立つのであれば、皆さんが手にしやすくなるように思います。実際、展示会では好評をいただきました。課題はスマホに慣れていない年齢層の方などに、どう使ってもらうかです。
内山 SNSもうまく使いこなせていないように思います。重要な仕事をしているのに情報発信が少ないので、魅力が伝わっていない。もっと最新の情報に触れること、そして土木建設業界全体で情報発信に力を入れていくべきでしょう。
機械の仕事、人がやるべき仕事 未来の現場はこう変わる
――ICT・IoT技術によって、現場はどう変わっていくと思いますか?
内山 危険を伴う作業は、機械がどんどん肩代わりするようになると予測しています。実際、建築現場の高所点検でも足場をかけて人が上って点検するのではなく、ドローンを使った点検が試行されています。熟練の技術者が壁を叩いて判断していた劣化診断も、カメラとAIで解析できるようになります。ただし、人に代わり機械化や自動化が進んでも、監督する技術者は一定数必要だと思います。
平山 現場作業は機械が受け持ち、企画や設計など、創造性が高い仕事は人が受け持つようになる機会が増えると思います。そうなれば働き方自体もだいぶ変わってくるでしょう。
松崎 施工の自動化が進めば、現場で施工管理する人も、従来とは違ったICTに関する知識が求められるようになります。
沖田 技術者の長年の経験や勘による判断などは、AIに代替されるのはまだ先です。そうした部分はしっかりと次世代に伝承していかないといけません。
柿本 限られた作業人員で決められた予算や工期に合わせるために、働く人が四苦八苦しているのが現在の土木建設業だと思います。AIやXR(クロスリアリティ)の技術が発展すれば、人の手間を掛けずに、あらゆる作業パターンをシミュレーションできます。それによって、出来上がりのイメージを分かりやすく共有できたり、設計の変更も容易になるなど、作業手順を効率化できます。さらには、発注者や周辺住民などの意見を反映できるようになります。そうして使いやすく意匠と機能が優れた土木構造物がどんどん増えていけばいいなと思っています。でき上がった土木構造物が評価されれば、つくる側のモチベーションも高まります。土木建設に携わりたいと思う人も増えてくると思うのです。
谷村 ただ、技術だけが先走っても意味がありません。私たち建設機械メーカーは、まずはお客さまの「こうしたい」という声を聞き、それをしっかりと着実に実現していきます。
他分野と協業することで変化への“気付き”が生まれる
――近年、オープンイノベーションによって、日立建機の建設機械やサービスでも外部の知恵や技術を組み合わせた製品が多く開発されています。皆さんは、仕事で他社の人々と協業するようになり、どんな変化や発見がありましたか?
谷村 ICT施工やi-Constructionの進展で、今お客さまに提供しているソリューションのほとんどが、IT業界など他分野の企業との連携で成り立っています。私たちはどうしても「機械」に寄った考え方をしがちですが、他社との協業で、視点の違いに気付かされることは多いです。
沖田 ICT施工によってデータの3次元化が必須となり、測量やソフトウェア分野の企業とつながりが生まれました。また、その分野での取引先を紹介していただいたりして、さらに新しいお客さまとのつながりも生まれています。
松崎 実は私の所属する日立ソリューションズでは、土木建設系のソフトを開発したのは今回が初めてでした。日立建機との協業がなければ、盛土の体積を計測するアプリは実現しなかったでしょう。特に、日立建機のお客さまの現場をお借りして実際にアプリを使ってもらい、実証実験できたことの意義は大きかったです。お互いが持っていないものを連携によって組み合わせ、どれだけ相乗効果を生み出せるかがオープンイノベーションのポイントになると思います。
平山 私たちはさまざまな仕事の中で使うソフト、いわば1つの歯車を提供してきたのですが、協業によって土木建設業の全体がリアルに感じられるようになりました。半面、垣根がなくなることに危機感も感じています。例えば建設機械メーカーであってもソフトウェアをつくることができる。したがって、今後はソフトウェアメーカーも「自分たちだからできること」を全力で追求していかなければいけない――。そう気を引き締めています。
――コラボレーションによって、土木建設業に大きな変化を起こすようなアイデアが何かあれば、お聞かせください。
内山 ITベンチャーは、これまでいろいろなところと積極的に組むことで、さまざまな新しい技術やサービスを生み出してきました。ですから大手の建設会社であっても、もっと気軽に「何かいいアイデアはないか」と、私たちに声をかけて欲しいですね。今、建設業をテクノロジーで変革する「Construction-Tech」という言葉が注目されています。しかし市場は大きいにもかかわらず、建設分野へのITベンチャーの参入はまだまだ少ない。建設ITが盛り上がり、さまざまなソリューションが提供されることで、建設業を取り巻く環境は大きく変わります。そうなれば建設業に関心を抱く若者も増えていくでしょうし、IT業界にとってもプラスになります。
柿本 鹿児島で高校生向けの現場見学会を開いたときに、AR(拡張現実)の技術を紹介しました。スマホを施工箇所に向けると、その場所の情報がオーバーレイで表示される。それを見た学生たちから歓声が上がりました。ICTやIoT技術は、若い人を引きつけます。ICT建機の試乗や、現場体験などを入れた土木建設業界のイベントが頻繁にあれば、若い人の業界に対するイメージも変わってくると思います。
谷村 一般の人は現場を見る機会がなかなかありませんが、実際、現場に入ると「すごい」と感じます。それを体験してもらうのは大きいでしょうね。私自身、オープンイノベーションを経験して、社外との横のつながりの重要性を痛感しました。一度つながりができれば、一緒に何ができるかを考える機会も増えます。土木建設業界が他分野とのつながりを積極的に増やしていくことで、ICT化を加速していけるはずです。私たちは建設機械メーカーの立場から、それを強力にバックアップしていきたいと思っています。
谷村公輔
日立建機
営業統括本部 営業本部
「CSPI-EXPO(5月開催)」で、日立建機として何をどのように訴求していくべきか、企画を練っているところです。
沖田浩平
日立建機日本
顧客ソリューション本部
ICTソリューション推進部
ICT施工の部署に異動して4年目。設計データで最終の出来形管理までする時代となりやりがいを感じています。
松崎ひかる
日立ソリューションズ
空間情報ソリューション本部
入社3年目のSEです。日立建機と共同で、スマートフォンで撮影するだけで盛土の体積を3D計測できるアプリを開発しました。
平山雅浩
福井コンピュータ
鹿児島オフィス
情報化施工に対応したソフトを開発し、日立建機と連携して販売しています。お客さまの現場でのサポートもしています。
柿本亮大
サイテックジャパン
ソリューション開発グループ
GPSや光学、IoT技術などを駆使し、日立建機と連携して、お客さまが抱えている課題へのソリューションを開発しています。
内山達雄
ハンズシェア
代表取締役
とび職人を経て起業し、受発注者のマッチングサービス「ツクリンク」を運営。建設業界を活性化させるために奔走しています。