拝啓・現場小町 - 日本郵船株式会社 小西智子さん
各方面の現場でイキイキと輝く活躍する女性にその醍醐味や将来の目標などを伺いました。
文/編集部 写真/上野隆文
「背負わなくていいよ」という一言で、自分らしく働けるようになりました
三重県出身。鳥羽商船高等専門学校を卒業し、2004年日本郵船に入社。初の女性航海士採用だった。2017年4月に船長に昇格。現在は陸上勤務で、船上作業の省力化に取り組む。
船上の仕事の魅力を広く伝えていきたい
2017年、130余年の歴史を誇る日本郵船で、女性として初めて船長に登用された小西智子さん。辞令を受けた際、喜びよりも重圧が両肩に掛かったという。「船長は、船上の全クルーや貨物、船全体の責任を負う存在ですから」(小西さん)
航海士をめざしたのは、小学生のとき。地元で自衛隊の掃海艇を見たのがきっかけだった。「初めて船の上で働いている人を見て、『いいなあ!』と憧れました」。
その後、貨物を輸送する商船を知った。日本の貿易に占める海上貨物の割合は重量ベースで約99.6%。「ガスや電気の原料はもちろん、食料品や衣料品も自分の船で運んだものかもしれない。とてもやりがいを感じています」
中学卒業後、商船高専に進み、夢をつかむべく歩み始めた小西さんだったが、最初の壁は就職活動だった。外国航路の航海士は、どの企業も女性の採用実績はゼロ。「先生にも『受けても難しいだろう』と言われました。でも、人生でやりたいことがあるのに、なぜ諦めなきゃいけないのだろうと」。小西さんの夢を実現してくれたのが、日本郵船だった。こうして小西さんは、“日本初の外航女性航海士”のキャリアをスタートさせた。
船上の生活は男性だらけ。しかし、小西さんは「高専時代も周りは男性ばかり。私自身は抵抗がありませんでしたが、周りの方が気を使ったかもしれません。クルーは、業務時間外に自宅のお風呂上がりのような服装で歩いていても以前は平気だったのに、私がいるとそういうわけにはいかないし(笑)」と大らかに笑う。
環境には動じなかった小西さんも、“初の女性航海士”という役割は重く感じたという。「自分が失敗したら、女性採用の道が絶たれるかもと……。入社5~6年のころ、上司に『肩に力が入りすぎ』と指摘されました。そこからようやく自分らしさを出せばいいと楽になりました」。今は社内に13人の女性航海士がいる。船上で一緒に働いたことはないが、心強い存在だという。
大型船舶には、航海士以外に機関士や食事担当の調理師なども含め約20人が乗り込む。航海士は一等~三等に分かれ、3交代のシフト制。業務内容は操船、貨物の管理、船舶のメンテナンス指揮など多岐にわたる。1度乗船すると4カ月間は乗船したまま、その後、下船し2カ月休暇をとるのが基本パターン。「乗船中は、船を降りてからの旅行プランや観たい映画を手帳にたくさん書きためています」
今は数年間の陸上勤務期間中。船上作業を省力化する業務に携わっている。実際に船長として船に乗り込むのは数年先になりそうだ。「自分がつくったシステムで、船員にとって働きやすく快適な環境ができる。航海士の仕事の魅力をより多くの人に伝えられたらと思っています」
ティーセットとボードゲーム
船上では、朝10時はお茶の時間。フランスやシンガポールなど、寄港地で買った紅茶をいれるのがリラックスのひと時だ。「香港で買ったタンブラーがお気に入りです」(小西さん)。オフタイムの楽しみの1つが、趣味のボードゲーム。
人事グループ 海上人事グループ チーム長 増冨聡司さん
小西さんは、いつも明るくて頭脳明晰な社内の人気者。一緒に働く人たちとのコミュニケーションも上手で、チームをまとめてくれます。責任を持って任務をやり遂げる姿に、信頼も厚い存在です。