特集 - [進化するマイニング]ダンプトラックの自律走行システム大解剖!
日立建機では、鉱山を行き交うさまざまな車両の状況をリアルタイムで把握・配車管理する鉱山運行管理システム(FMS)
を各国の露天掘りの現場に展開している。このシステムをベースに、鉱山用ダンプトラックの無人自動運転
という新たな世界を切り開いたのが、自律走行システム(Autonomous Haulage System:以下AHS)だ。
日立グループの力の結晶でもあるこの技術は、鉱山業界の未来に何をもたらすのか。
顧客ソリューション本部の本部長補佐 安田知彦の言葉をもとに追ってみた。
教えてくれたのは
日立建機
顧客ソリューション本部 本部長補佐 兼 マイニング事業本部 本部長補佐
安田知彦
最近は鉱山会社も長期目線で投資し、最新技術導入による効率向上をめざしています。AHSはそうした背景にフィットするでしょう。
Q. 日立の鉄道技術がいかされているってホント?
A. はい。電車がぶつからずに安全に走行するシステムを採用しています。
AHSは、ダンプトラックがFMSの指令にもとづき自律走行することで、生産性や安全性、コスト最適化に寄与するシステム。表土や鉱石の積み込み場所から、降ろす場所までの道をいくつかの区間に分けて、ダンプトラックが区間の入り口に進んだときに、FMSによる指令で走行可能か指示される。この仕組みは、線路を多くの信号機で区間分けをし、電車を安全に走行させる日立製作所のノウハウがベースだ。
Q. 完全無人化は可能?
A. 将来は「進む・止まる・曲がる」がすべて無人運転化されるでしょう。
AHSを導入したダンプトラックは、FMSの指令を受けてシステムが発進・停止やステアリング操作を自動制御し、完全な自律走行を実現している。日立製作所が培った鉄道の運行管理のノウハウにより、50台以上のダンプトラックの無人化にも対応できるだろう。万一トラブルが起きた際に人間が操作して動かせるようにするため、運転席も設けられている。
Q. 無人でも安全に走行できるのでしょうか?
A. 人間のようにミスをしたり疲れたりすることはありません。
人間のオペレータによる運転では、ミスや無謀運転、疲労・不注意による事故などが起きる可能性がある。その点、AHSであれば、人的要因によるトラブルは発生しない。また、もともと日立建機のダンプトラックは高度車体安定化制御技術の搭載により安定して走行し、横すべりなどがおきにくいので、無人運転でも安心だ。そのほか、走行経路認識、障害物検知機能などにより、鉱山の現場の安全性を高める。
Q. メンテナンスコストは低減できますか?
A. 車体や走る道への負担を減らせるので大幅に低減できます。
ダンプトラック本体や走るルートの路面に負担を与えない最適な走行が可能なので、無理な使い方によるダンプトラックの故障や路面の傷みが防げ、メンテナンスコストも低減できる。また無理な加減速や速度超過の無い安定した走行で、燃費削減につながる。AHSは安全面での貢献が期待されるので、導入により稼働を止めることなく、生産性もアップする。
Q. AHS導入で人手不足を解消できる?
A. 自律走行により人手不足の解消も効果をもたらします。
鉱山は市街地から遠く離れた厳しい職場環境というイメージから、近年は若者離れが進み、鉱山業界は人材確保に頭を悩ませている。ダンプトラックの無人化は人手不足解消に貢献。一方で運行管理を担うエンジニアなどの雇用を創出できるだろう。また、現場の安全性が高まることから、鉱山業界は危険というイメージの払拭にも効果がある。
For the future
持続可能な鉱山の開発に向けて
鉱山は地球に負のインパクトをもたらす側面もある。しかし鉱山会社はただ大地を掘り、山を削るのではなく、生物多様性や水資源保護、周辺住民の雇用創出・生活配慮などさまざまな取り組みを進めている。27の鉱山・製錬関連企業で組織されるICMM(国際金属・鉱業評議会)でも持続可能な開発に向けた10の原則を提唱し、業界を挙げてSDGsの目標達成や専門家などとの連携を推進する。
日立建機も、超大型油圧ショベルやダンプトラックの電動化や無人・自動化などを通して効率よく資源を採掘し、環境と社会の発展に貢献していく考えだ。さらに、鉱山機械向けに部品を再生する工場機能を強化した。古くなったら捨てるのではなく、有効活用に向けたソリューションも提供。鉱山のサステナビリティをサポートする一翼を担っている。