特集 - 働き方、変えてみる?
2019年4月より「働き方改革関連法」が順次施行されています。仕事のマニュアル化が難しい建設業でも24年4月には時間外労働の上限が罰則付きで規定されます。働き方改革をめぐっては、長時間労働や残業時間の規制、休日の増加などに注目が集まりがちですが、そもそも働き方改革は、「生産性の向上」にこそ本質があります。今回の特集では、従業員の幸福度を高めて生産性を上げる真の働き方改革のヒントを専門家に解説していただきました。
また、働き方が変わる先に何が起きるのか? 何を準備しておかないといけないのか? 今回の働き方改革の先に待つ未来もご紹介します。
文/藤田美菜子、児玉真悠子
写真/関根則夫、糠澤武敏(アトリエあふろ)、木村輝
イラスト/髙栁浩太郎
「働き方改革関連法」が本格的にスタートしたが、成否を分けるカギは何か?
改めて本改革の意味と導入のヒントを、有識者議員を務めたジャーナリストの白河桃子氏に解説してもらった。
働き方改革の本質は「社員の幸福」と「会社の業績アップ」の好循環をめざすこと
私は、働き方改革の最終的な成果・本質を「社員が幸せに働くことで、会社の業績がアップする好循環が生まれる」ことだと捉えています。つまり社員の幸福と、会社の業績は「セット」なのです。社員にとっては、心身が好調であることが、そのまま生産性につながります。やりがいや成長を日々感じ、睡眠時間もきちんとあって、健康的でプライベートも充実した質のいい時間が確保できている。それが、仕事のパフォーマンスを高めるのです。これは、多様で柔軟な働き方ができる職場環境なくしては成立しません。
企業にとっても、多様な働き方を受け入れられるかどうかは、今後の生き残りを決します。日本が人口オーナス期に入り、人口ボーナス期に比べてモノもサービスも売れなくなった現在、競争力のあるイノベーションを実現するには、多様な視点を持つ集団であることが不可欠です。また、深刻な人手不足を解消するためにも、多様な人材を積極的に雇用していく必要があります。
これらを総合的に実現するための手段が、働き方改革なのです。(談)
Q1 長時間労働是正を導入すると売上が落ちませんか?
A まず業務の効率化を徹底しましょう。
労働時間をスリム化するなら、業務の効率化は絶対に必要です。なかでも効果が高いのは「ペーパーレス化」。書類を持ち回ってハンコを数人からもらうといった非効率的な作業をなくすだけで、かなりの時間節約になります。また、年に1回、必ず「会社全体の業務を見直し、その4分の1を削減する」という取り組みも有効。業務を「時間」と「売上」で整理し、「時間がかかっているのに売上につながっていない仕事」を整理しましょう。
Q2 残業が不可避な職場は、どのように改善すればいい?
A ITツールを積極的に活用しましょう。
職種によっては、ある程度の残業はやむなしとしなければなりません。ただし、同じ業種の中で一番働きやすい企業になれば、競合他社に勝つことが期待できます。神奈川県にある電気設備会社の場合、社員にノートPCを配布し、工事の現場から会議や打ち合わせに参加できるリモート環境を整えたことで、移動時間を節約することに成功しました。残業時間の削減が難しいとされる、現場のある業種や職種でも、ITツールなどを導入すれば効果的な改革が可能です。
Q3 働き方改革の成果が感じられません。
A 経営課題をしっかり設定しましょう。
改革がある程度進んだ現在、日本企業の8割強は残業時間の削減に成功しています。しかし同時に「これに何の意味があるのか?」という疑問も浮上しています。
改革を行ったのに成果が上がらないのは、そこに「目的」がないからです。「残業時間720時間以内」などは、あくまで目的達成のための手段のひとつであり、それ自体が目的ではありません。
例えば、ある中小企業では「入社3年以内の新卒社員の定着率を上げる」という課題を設定して働き方改革を行った結果、2年ほどで問題は解決しました。このように、きちんと目的を掲げて改革を行っている組織は、大企業・中小企業の別を問わず、必ず成功するものです。
Q4 子育て社員のサポートはどのように行うべき?
A 男性の育児休暇を推進しましょう。
女性の子育て支援については多くの職場で導入が進んでいます。ですが、育児と仕事の両立を困難に感じる女性があまり減らないのは、男性も育児に参加しやすい状況にないからです。したがって、子育て支援の観点から今後最優先で進めていくべきは男性の育児休暇の導入です。これは、10年啓発しても取得率は全国で約6%と、まだほとんど手つかずの分野です。ただ導入するだけではなく、男性の育児休暇を企業が義務化することで、初めて男女が平等な条件で働くことが可能になるのです。
Q5 ベテラン世代が働き方改革に非協力的で困っています。
A 評価と報酬を「生産性」重視で再設計しましょう。
昭和の高度成長期に成果を上げていた企業には、長時間労働を良しとするDNAが残っています。こうした企業では、評価や人事制度が長時間労働を前提として作られているため、いきなりテレワークを導入したとしても誰も手を挙げないでしょう。したがって、評価と報酬の再設計がきわめて重要な課題と言えます。生産性が高く、短時間で結果を出した人の給料が高くなる仕組みを構築し、長時間労働のDNAをアンインストールしましょう。
相模女子大学客員教授・ジャーナリスト
白河桃子氏
昭和女子大学客員教授、内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員。東京生まれ、慶應義塾大学で社会学を専攻。住友商事、リーマンブラザースなどを経て執筆活動に入る。女性の活躍、ワークライフバランス、少子化、働き方改革、ダイバーシティなどをテーマとする。講演、テレビ出演多数。近著に『ハラスメントの境界線』(中公新書ラクレ)。