特集 - 幸せで安全に働くためのコミュニケーション術
「働き方改革」の波が建設業界にも押し寄せている。
働きがいを感じながら、安全に働くためのコミュニケーション術を建設業界を知りつくした降籏達生氏に教わった。
ハタ コンサルタント(株)代表取締役
NPO法人建設経営者倶楽部KKC 理事長
降籏達生氏
1961年、兵庫県生まれ。83年に大阪大学工学部土木工学科を卒業後、熊谷組に入社。ダムやトンネル、橋梁工事など大型土木工事に参画。95年に阪神淡路大震災で故郷の神戸市の惨状を目の当たりにして独立。技術コンサルタント業を始める。99年にハタ コンサルタント株式会社を設立し、代表取締役に就任。建設業の経営改革や建設技術支援のコンサルティングを10万人、4,000件以上手がけてきた。
働きがい=やりがい+働きやすさ
「働き方改革関連法」の施行で、建設業界も2024年までには、従業員の残業規制が求められています。残業の削減や休日の確保など、その方向性にはおおむね賛成ですが、働きやすくするだけでは業績アップにつながりません。
特に、建設業は一品生産のため製造業のように業務内容をマニュアル化しづらく、また天候などの自然を相手にする仕事であるため画一的なスケジュールで進められません。そして、オフィス内での作業に比べて現場では危険を伴うこともあります。
これらの特徴を踏まえながら、いかに従業員の“働きがい” を高め、個人の生産性を引き上げ、結果として残業を減らしていくか。これこそが、建設業界ならではの「働き方改革」といえるでしょう。業績アップのためには、「働きやすさ」に加えて「やりがい」を高めて「働きがい」を満たしていくことが重要です。そして、上の表にある欲求を満たすことで働きがいは高まります。
ここからはコミュニケーションの観点から職場の働きがいを高める方法をご紹介します。すぐに実践できるものばかりなので、ぜひ試してください。(談)
働きがいは、職場が安全基地であるほど生まれやすいものです。建設業界における職場の安全基地とは、本社や建設現場。たわいもない会話も気軽にできる心理的安全性の高い職場では、社員同志の信頼関係が育まれやすい。現場の近隣住民と信頼関係を築くうえでも、積極的に話しかけるのは効果的です。
Point
工事の挨拶で最初から本題を切り出すのはNG。「お庭きれいですね」などの日常会話を通して、仲良くなろう。
建設業は「地図に残る仕事」と言われ、やりがいを得やすいと言われていますが、現場で働く人たちすべてが、竣工時に立ち会えるわけではありません。だからこそ、現場のトップが、意識的に情報を共有することが重要です。例えば、トンネルが貫通する瞬間や整備した土地が竣工されるタイミングなどを写真や動画に残して、関係者にメールで送ってみる。こうして仲間から成果を認めてもらうことが、働きがいの向上につながります。
褒め方には、結果、行動、存在の3種類を褒める方法があります。結果は、すでにその結果自体が本人を褒めてくれるもので、行動は、例え当たり前のことでも部下の言動をしっかり見ておく必要があります。そして、その中でも効果的かつ取り組みやすいのは、存在を褒めること。「君がいると周りの刺激になる」「君のおかげでチームが楽しくなった」など個人の存在に注目して褒めてあげましょう。
「ありがとう」と言われたら、誰だってうれしいですよね? けれども、言う側は案外照れくさいもの。だからこそ、感謝の気持ちを伝え合う仕組みを作ることが重要です。例えば、SNSのチャットツールを使って、「ありがとう」を送り合うシステム。面白いのは、「ありがとうメール」を1つもらったら、10円が貯まるというルールを作ったこと。皆が楽しみながら取り組めるルールを考えましょう。
建設業界の朝礼では「今日も元気で頑張るぞ」と手を上げて宣言したり、「ヘルメットよし! 安全対策よし!」と指をさして点検しあったりします。では、こうした言動の重要性をきちんと伝えているでしょうか。明るくて元気な言葉や動作や表情は脳にポジティブな刺激を与え、人の熱意が高まる効果があるといいます。たとえ疲れていても、表情に出さず、笑顔でいるように心がけましょう。
クレームや事故などの失敗に対して、「起きてしまったこと」をくどく叱っても、本人は成長しません。それよりも、良くない結果を引き起こしてしまった行動を認識してもらいましょう。
人材育成とは、コップに水を入れるようなもの。コップが下を向いている人に水を入れても意味がないように、やる気がない人に指導しても、知識や経験は蓄積されません。やる気を高める鍵を握るのが、仕事を任せること。主に若手に権限委譲する場合、気をつけなければいけないのは、「任せて任せず」の考えです。急に若手を独り立ちさせるのではなく、上司や先輩も一定期間伴走して見守る、責任は上司が取る、などが有効です。