特集 - 5Gでどう変わる?
次世代の通信システム「5G」サービス。
スマートフォンがサクサク快適に使えるようになるようだけれど5Gで私たちの暮らしはどう変わるのか、詳しく知らないという人も多いのでは。
さらに5Gの導入により、さまざまな産業のビジネスも変わりつつある。
今号では、5Gにまつわる基礎知識を解説するとともに、5Gで変わる近未来の姿と、建設業界の取り組みについて紹介する。
文/藤田美菜子、太田利之
写真/川上輝明(表紙、p3、p4)、関根則夫(p4 ポートレイト、p8-9)
イラスト/中根ゆたか
「結局、5Gで何ができるの?」という疑問を抱いている人も多いだろう。
5Gが、私たちの生活を具体的にどのように変えていくのか、話題の書籍『5Gビジネス』の著者である、野村総合研究所の亀井卓也氏に聞いた。
野村総合研究所
ICT メディア・サービス産業 コンサルティング部
テレコム・メディアグループマネージャー
亀井卓也氏
東京大学大学院工学系研究科修了後、2005年に野村総合研究所入社。現在は情報通信業界における経営管理、事業戦略・技術戦略の立案および中央官庁の制度設計支援に従事。著書に『5Gビジネス』(日本経済新聞出版社)。
5Gがどのような時代をもたらすのかをイメージするには、「5G時代にはどんなデバイスが普及するのか」を考えるとわかりやすいでしょう。
ひとつは「グラス型デバイス」。メガネ状のデバイスを装着することで、拡張現実「AR」をメガネ越しに透かして見せたり、デバイスに搭載された多数のセンサーによって、仮想空間と現実空間を融合する「MR(ミックスドリアリティ)」を実現します。
このところの新型コロナウイルスの影響で、リモートワークに踏み切る企業も増えましたが、「ビデオ会議よりも対面の方がやりやすい」といった意見は根強くあります。グラス型デバイスに超高解像度な動画を5Gを介してやりとりすることで、遠くの相手が目の前にいるような感覚を得ることができます。ただ会話をするだけならビデオ会議でも事足りますが、MRグラスを介せば、遠くの人と「共同作業」できることがポイント。例えばバーチャルなデスクの上に立体的な設計図を表示し、それを複数の人間で検証しながら、その場で修正を加えるようなイメージで、実際に会わなければ難しいと考えられていた作業がリモートで行えるようになるのです。米マジックリープ社が開発しているスマートグラスは、このような未来を実現しつつあります。
もうひとつは、おなじみのスマートフォン。5G時代のスマホでは、これまで以上に「スマホ推し」になり、多彩なカメラによるマルチレンズが標準になります。「そんなに高性能なカメラ機能はいらない」と思う人もいるでしょうが、これらはキレイな写真を撮るためだけにあるわけではありません。これからの時代、スマホのカメラは「目」の代わり、あるいは「目」を超えるもの。高精細な映像を5Gでネットのデータベースに常時接続していれば、漢字の読み方から商品の値段まで、カメラが捉えたあらゆるモノに関する情報を検索することなく瞬時に取得できます。また、マルチレンズはさまざまなセンサーとしても機能し、前述のメガネのようなMRデバイスとしてスマホを活用するのがトレンドになるでしょう。
このような、これまでになかったデバイスの登場で、私たちの生活は大きく変わっていくのです。
4G時代のキーワードは「いつでもどこでも」でしたが、5G時代は「今だけここだけ」の時代。それをもっとも実感できるのがエンターテインメントの分野です。
「いつでもどこでも」の時代は、スマートフォンで映画やライブを楽しむのがスタンダードでした。それが、「今だけここだけ」の時代には、もっと「体験」としての特別感が求められるようになります。それを象徴するのが、東京五輪で実施される予定の「プライベートビューイング」という試みです。
「パブリックビューイング」という言葉は聞いたことのある方も多いはず。映画館やスポーツバーなどの大型映像装置で、別の場所で開催されているイベントをリアルタイムに鑑賞、観戦しようというものです。
プライベートビューイングは、その小規模バージョン。知り合いだけの貸し切り空間でイベントを楽しみ、食事やお酒を楽しみながら、周りを気にせず盛り上がれるのが魅力です。パーティースペースやケータリングサービスと連携し、トータルでの需要が見込めるということで、ビジネスとしての可能性にも期待が寄せられています。
「いつでもどこでも」オンラインショップでモノが買える時代に慣れてしまうと、逆に人は「ショッピングモールに行く」という体験をしたくなるもの。5G時代には認証システムが高度化し、スマートフォンのアプリなどを介してショッピングモールの入り口で自動認証を行うだけで、レジを通さずに買い物ができるようになるでしょう。代金は、アプリに登録したクレジットカードから自動的に引き落とされることになります。
また、ユーザーは「モノを買う」以上の体験をショッピングモールに求めるようになります。昔ながらの商店街では、週末にガラガラで抽選を行ったり、子どもたちに風船をプレゼントしたりといった企画を実施していますが、それらをもっとゴージャスに、楽しく演出したイベントを仮想空間で体験できる場が増えるのではないでしょうか。例えば人気アニメの世界の中で抽選ができて、当選したらアニメに登場するキャラクターたちに祝福してもらえるようなイベントです。
利便性ばかりを追求してきた時代は終わり、5G時代は遊び心を追求する時代。「体験」をさらにグレードアップするような試みが増えていくでしょう。
「働き方」というテーマでは、テレワークが加速していくのは間違いないでしょう。新型コロナウイルスの影響で、テレワークの普及が急速に進んでいます。
テレワークといえば、従来よく例に出されていたのが「遠隔医療」。海外に“ゴッドハンド”と呼ばれるような名医がいて、遠隔でロボットを操作して日本の患者さんを手術するというイメージが浸透しています。
しかし、実際の遠隔医療のあり方は、「海外にいる名医と、日本にいる執刀医がコワーク(共同作業)する」という形になるでしょう。監督役の医師が、超高精細な画像を見ながら遠くの執刀医に指示を出すという新しい医療の形は、すでに現実のものになっています。
建設の現場でも、工事の担当者と現場にはいない設計の担当者が、目の前に同じ建物を見ながら、進行を確認し合ったりできるようになります。
「重機を遠隔から操縦する」といった技術は、現在も日進月歩で進んできていますが、5G時代は、エキスパートとエキスパートがコワークして生産性を上げていく時代になっていくでしょう。