拝啓・現場小町 - JAMSTEC(国立研究開発法人海洋研究開発機構) 長野由梨子さん
「これは何だろう?」新しい発見へのワクワク感が仕事の醍醐味
神奈川県生まれ。イギリス北アイルランドの大学院で肺に感染する病原菌の研究に携わり、2008 年よりJAMSTECへ。深海に生息する真菌の数少ない研究者の一人として、新種などを多数発見している。
人の役に立てる“深海菌”を探して
神奈川県横須賀市に本部を構えるJAMSTECは、海洋研究開発などを目的とした研究所。長野由梨子さんはここで研究員として、深海に生息する真菌=深海菌の研究に当たっている。真菌とはカビやキノコの仲間のことで、深海菌は、抗生物質をはじめとする医療に役立つ物質を作るほか、環境保護への貢献も期待される未知の生物。その“未知”に引かれて、JAMSTECに入った。
大学、大学院では「人の役に立ちたい」と医療分野の臨床微生物の研究をしていた。運命の公募を見つけたのは大学院在院中、就職先を探していた時だった。「『深海は“地球最後のフロンティア” で、99%の微生物がまだ発見されていない。今後は、未知の微生物が作る有用物質を探索する』と書かれていて面白そうだなと。自分が研究する分野にも関係しながら、大好きな海も身近になる。つながったな、と感じました」
JAMSTECが所有する有人・無人の潜水調査船が深海から持ち帰ってきた堆積物や生物から真菌を培養し、深海の環境中に含まれる真菌由来のDNAを調べるのが主な仕事。前述のように深海菌は未知の分野であり、長野さんもこれまで100種以上の新種を発見した。「やればやるほど新しいものが見つかるのが毎回楽しみです」。併せて研究論文を発表するのも大切な業務だ。
これまで2回、実際に深海まで降りたことがある。直近では2019年、小笠原諸島沖に3週間の航海に出た。十数人の研究員が調査に赴き、うち6人ほどが日替わりで有人潜水調査船「しんかい6500」に乗り込む。定員は3人。3人がやっと座れる広さしかなく、トイレもない。乗り込んだら約8時間、カメラが映し出す映像をモニター越しに観察したり、研究に必要な堆積物などを採取したりする。
この時に潜ったのは深さ5,800mの海の底。調査航海のテーマは、深海底のプラスチックごみだった。「実際に見た限られた範囲だけでも、想像以上にプラスチックごみがたくさん見つかったのは衝撃でした」。現在はプラスチックに付いていた真菌に、分解作用を持つものがいるかを探っている最中だ。自身の研究にとっては、海底に落ちていた木片から、深海にしかいないキノコを発見できたことも大きな収穫だったと話す。
長野さんは「今後は、海洋深層水から環境DNAを採取して、季節や環境による変動を研究していくとともに、プラスチック分解菌などの研究もしていきたい」と語る。仮に真菌に特定の作用が見つかっても実用化するまでには長い年月がかかるという。しかし、学生時代に志した「人の役に立ちたい」思いは、舞台が海底に代わっても、変わらずに彼女の探究心を支えている。
お子さんといっしょに全力で遊びリフレッシュ
長野さんは5歳と3歳のお子さんを持つママでもある。「オンとオフはメリハリをつけたい」と語り、休日はお子さんと過ごすのがリフレッシュ時間。「ドッジボールやけん玉をかなり真剣にやってヘトヘトです(笑)」
海洋生物環境影響研究センター センター長
藤倉克則さん
物事の本質をいち早く理解しながら仕事をされています。育児も仕事も大変だと思うのですが、ひたむき!そして重要なポイントは外さない!そして何より、まわりの人への気配りも忘れない!素敵です!!