所有から利用への転換が、資源循環の力に。
競争優位へ導くサーキュラーエコノミーとは
日立建機はレンタル事業推進により、サーキュラーエコノミーへの貢献も視野に入れている。ライフサイクル工学を専門とする東京大学大学院工学系研究科教授の梅田靖氏に、サーキュラーエコノミーの動向と、それを進展させるための取り組みについて伺った。
梅田 靖氏
東京大学
大学院工学系研究科 教授
東京都立大学大学院工学研究科機械工学専攻助教授、大阪大学大学院工学研究科機械工学専攻教授を経て、2014年より現職。専門は、ライフサイクル工学、ライフサイクル設計など。21世紀政策研究所研究主幹。著書に『サーキュラーエコノミー:循環経済がビジネスを変える』(勁草書房)
世界が注目するサーキュラーエコノミーとは・・・
これまでの、資源を大量に使用した製品を作って廃棄する直線的な経済に対して、資源を循環させて価値を生み出し、経済もうまく回すという経済システムのこと。製品の設計段階から、資源の再利用や廃棄物の発生を抑制することを前提としている。
これまでの3Rと異なり資源循環と経済成長を結びつける
1990年代から循環型社会の概念が登場し、日本では「3R」(Reduce、Reuse、Recycle)の取り組みが始まっていました。その後、2010年にサーキュラーエコノミーを推進するエレン・マッカーサー財団(本部・英国)が設立され、さらに2015年、EU(欧州連合)がサーキュラーエコノミーへの方向性を示した政策パッケージを発表したことをきっかけとして、サーキュラーエコノミーの世界での注目度が一気に高まりました。3Rとの最大の違いは、資源循環を前提とし、雇用を確保しながら産業競争力の強化に結びつける経済システムづくりをめざしている点です。
製造業では、かつてはモノを大量に作り、使い、廃棄するという「売り切り」の発想が主流でした。しかし、人々の「所有」に対する価値観を敏感にウオッチする中で変化が生まれてきました。従来の考え方は、製品は購入した時点で最高の価値を実現するというもの。それに対して、購入時点だけでなく使っている期間中、さらには使い終わった後も含めたトータルな視点で価値を実現しようというのが、私が研究するライフサイクル工学の軸にある考え方であり、サーキュラーエコノミーとつながるところです。つまり、メンテナンスやアップデート、使用後の再利用までを最初から意識し、寿命の長さを視野に入れて製品設計するということです。しかし残念ながら、製造業ではまだ十分に浸透していないのが実情です。
もちろん作る側からすれば、きちんと再生されなければ、そのための設計コストが無駄になると考えがちです。ところが現在はIoTにより、製品が実際にどれくらい使用され、また再生が可能かというところまでをデータで確認できるようになりました。こうしたデジタル技術を活用すれば、より合理的な製品のライフサイクル設計が可能になるわけです。
サーキュラーエコノミーへの対応はリスク回避とビジネス創出にも
EUではサーキュラーエコノミーに関する規格化作業や法整備が進んでいます。その中には例えば、設計段階でサーキュラーエコノミーに適した製品にするために分解しやすくしておく、最新ファームウエアにアップデートできるようにしておくといった具体的な指針が含まれています。こうした取り組みはEUで行われているものですが、日本企業も対応していかなければ参入障壁になる可能性があります。EUの考え方は今後世界中に広まると思われるので、あらかじめ手を打っておくことでリスクを回避できるだけでなく、ビジネスチャンスにもつながるでしょう。さらには、同じく現在広がりを見せているESG投資にもいずれ、サーキュラーエコノミーの考え方が入ってくるでしょうから、対応しないでいれば資金調達面で影響が出る可能性があります。
高品質なモノづくりをベースにお客さまとつながり、トータル価値を提供
そもそもサーキュラーエコノミーは、モノの品質が良くなければ成り立ちません。日本はもともと高品質なモノづくりを重視する傾向が強く、その基本は大切です。ただし、今はモノを売って終わりではなく、製品の一生を見て長くサポートしていくという考え方に転換していく時期に来ています。
その点、日立建機は、モノとして高品質な製品を作った上で、サーキュラーエコノミーの発想を取り入れる方向にシフトしていると感じます。力を入れているレンタル事業はまさにその一つ。建設業界はもともとレンタルやリースの文化が広く浸透していますし、製品自体が高額ですから、メンテナンスや部品再生の視点も含めて、製品を長期にわたって使ってもらうための施策を打ち出しやすいのではないでしょうか。
そこでやはりカギとなるのが、デジタル技術です。IoTやAIで機械の稼働データを収集・分析し、お客さまにとってベストな形のメンテナンスを提供することで、単にライフサイクルコストを下げるだけでなく、資源循環につながる新たな価値も提供できるようになるはずです。
レンタルを含めた、こうした製品のサービス化により、供給する側とお客さまがつながることができるのが最も重要な点です。メーカーからすれば、このつながりを通じてきめ細かなサポートを提供できますし、稼働データを集めることでお客さまを知ることにつながり、新製品や新サービスの開発と展開にも活用できます。
製品開発力と技術力をうまくサービスへとつなげ、トータルでの価値をアピールできれば、強みはさらに強固なものとなります。そして、利用するお客さまと一緒に、製品の長寿命化に取り組むことで、環境への貢献も加味されるようになれば、お客さまにとっても、企業にとっても、そして世界にとっても、最も望ましい状況になるのではないでしょうか。