日立建機グループはカーボンニュートラルをめざす取り組みを加速させているが、実際のところどこまで進んでいるのだろうか。低炭素型建設機械、鉱山向けソリューション、デジタル活用などの観点から脱炭素の現状を追ってみた。
Q. 低炭素型建設機械にはどんなものがありますか?
建設機械において低炭素を追求する上でキーワードとなるのが「電動化」だ。日立建機は1971年に電動式油圧ショベルを初めて開発し、2006年にはリチウムイオン電池を搭載したバッテリー駆動式ミニショベルを市場投入するなど、早くから電動化を追求してきた。2019年にドイツで開催された「国際建設機械見本市(bauma 2019)」にはバッテリー式電動ショベルの新機種「ZE85」「ZE19」を参考出展し、その後も開発に力を入れている。このほか、ハイブリッドタイプのショベルやホイールローダ、電源ケーブルを接続して動かす有線式のショベルや鉱山(マイニング)向け機械も発売している。
Q. 導入は進んでいますか?
とりわけ環境規制の厳しい欧州では低炭素型建設機械の需要が高まっている。欧州では内燃機関のエンジンを持つ自動車の販売が2035年までに禁止されるため、建設機械へのニーズもその流れを追っている。「ZE85」がノルウェー政府によるゼロエミッション建設サイトパイロット事業に採用されたほか、エンジン式でも自動制御で作業効率を高め低炭素化に寄与するICT建設機械の採用が増えている。日本も政府の2050年カーボンニュートラル宣言を受けて建設会社などの関心が高まっており、今後欧州の動きを参考に低炭素型建設機械導入が進んでいくとみられる。
Q. 鉱山現場のCO2排出ゼロにむけた、日立建機の施策とは?
資源メジャーを中心に鉱山の脱炭素に向けた取り組みが進んでいる。都市工事と比べ規模が大きな鉱山では大型の鉱山機械が動いており、そのCO2排出削減は日立建機にとっても重要なテーマとなる。すでに有線式やトロリー受電式の鉱山機械を取りそろえているが、作業できる場所の制約や生産性を考えると、バッテリー式の鉱山機械が脱炭素への有効な答えとなる。日立建機は2021年3月、電気・電池の技術を持つスイスのABB社と、鉱山機械からの温室効果ガス排出量実質ゼロを目標とする「ネット・ゼロ・エミッション・マイニング」の実現に向けた覚書を交わし、6月にはトロリー式でバッテリー充電を行うフル電動ダンプトラックの共同開発契約を締結。今後も同目標の達成をめざし取り組みを進めていく。
Q. デジタル技術の活用は、建設業界においても脱炭素化の後押しとなりますか?
デジタル技術が脱炭素化を加速させることは間違いない。例えばICTやIoT技術を活用した建設機械の自律運転により、作業効率を高めることができる。鉱山においても2021年に提供開始した「ConSite Mine」でオペレータの運転・操作を可視化でき、生産性を上げることが可能。これらにより機械の稼働に伴うCO2排出を少なくでき、脱炭素にプラスの影響を与えられる。また、モニタリングも重要だ。「ConSite」を導入して機械の稼働状況をモニタリングすれば、稼働効率の向上やライフサイクルコストの低減に役立てることが可能で、同様に脱炭素化に貢献できる。
Q. 環境負荷低減に向け、稼働情報をどう活用していますか?
「ConSite」により部品の交換時期も見えてくる。機械の製造は生産工程でCO2が排出されるが、「ConSite」で稼働情報を管理し、適切な時期に部品交換をしていただくことで、結果的に新たな機械の製造を減らすことができ、CO2削減につながる。いわゆる製品の長寿命化により、環境負荷低減に貢献できるというわけだ。日立建機は再生部品にも力を入れており、こちらは資源循環の点で貢献できる。もちろん新車の販売台数は減ることになるが、日立建機は中古車販売やレンタルにも注力しているので、地球環境への配慮と自社のビジネスを効果的に両立できると考えている。
Q. 工事現場での排出量ゼロは可能?
鉱山に関しては「ネット・ゼロ・エミッション・マイニング」実現に向け取り組みを始めている。また都市部の工事においては、2020年にノルウェーのオスロで、電動化建設機械のみを使って建設工事を行うゼロエミッション建設パイロット事業が行われた。この工事ではドイツKTEG社と新設したEAC社と連携し開発したバッテリー式電動ショベル「ZE85」が採用されている。しかし課題も多い。都市の工事現場で使用される建設機械の種類ははるかに多い。脱炭素化に有効なバッテリー式建設機械は、現在は価格が高いため、まずは今後量産が進んで低価格化する必要がある。その上で現場に大量採用されなければならないわけだが、国の補助金等が整備されない限り現場での全台入れ替えはハードルが高いのが現実。今回のパイロット事業となったノルウェーは政府からの支援が充実しているが、国によりゼロエミッションに向けた温度差があるのも現状だ。
Q. バッテリー式重機の使い勝手は?
「ZE85」が使われるノルウェーの首都オスロの現場では、通常、午前に4~6時間稼働させ、ランチタイムに1時間充電を行って、午後2時間ほど稼働させるケースが多い。フル稼働では2~3時間でバッテリーが空になるため、休憩や別作業を挟むなどして効率的に運用し、4~6時間稼働させているとのことだ。「ZE85」自体は簡単に充電できるものの、ゼロエミッションの現場では全ての機械に充電が必要であるため、電源確保が課題だという。一方、騒音が発生しないため近隣住民や自治体から好感を持たれており、オペレータの作業後の疲れも従来より少ないと高い評価を得ているようだ。