日立建機グループは以前からCO2排出削減に積極的に取り組んできたが、お客さまや社会のニーズの高まりを受け、脱炭素に向けた動きをさらに加速させている。その牽引役であるサステナビリティ推進本部長の玉根敦司が、カーボンニュートラル実現に向けた見通しを語った。
お客さまはもちろん、さらに先にある社会全体の課題解決をめざす
2050年の宣言を受けてCO2削減への決意を新たに
2020年10月、菅義偉首相(当時)がいわゆる「2050年カーボンニュートラル宣言」を出しました。日立建機グループはそれ以前からさまざまな環境施策に取り組み、2019年4月にはサステナビリティ推進本部を発足。SDGs(持続可能な開発目標)に代表されるサステナビリティ活動の推進に力を入れてきましたが、カーボンニュートラル宣言はやはり影響が大きく、これを契機に官公庁やゼネコンなどのお客さまから建設機械についてヒアリングを受ける機会も多くなりました。
以前の製品開発は排ガス規制への対応が中心でした。宣言に先立つ2019年5月、2030年までに製品から排出するCO2を2010年度比33%削減、生産工程で排出するCO2を同45%削減するという数値目標を打ち出し、SBTi(Science Based Targetsイニシアティブ)からも認定を受けました。ところが、2050年にカーボンニュートラルを達成するにはそれだけでは足りないため、電動化を中心にさまざまな技術を織り込み、CO2を排出しない建設機械を開発して、可能な限り早くお客さまに供給していかなければとの決意を新たにした次第です。
当社グループでは「つくる」「つかう」「挑む」の3つの分野で環境価値創造の取り組みを行ってきました。この3つを追求する上では、お客さまが当社の製品をどのように使い、何を望んでいるのかをよく理解して、課題や困りごとを解決しなければならないと考えています。
例えばマイニングでいうと、大手の資源メジャーは当社よりも早く気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に賛同し、環境負荷低減の取り組みを進めています。お客さまに選んでいただくためには、まず「つくる」については、当然ながら機械自体から排出するCO2を減らせる製品をつくります。「つかう」については、「ConSite」などのモニタリングツールを活用することでCO2排出を削減できるという提案をしています。さらに「挑む」では、安全性と生産性の向上、ライフサイクルコストの低減といった課題を解決するため、製品だけでなくそれを取り巻くシステムにも注力。お客さまの目標達成はもちろん、お客さまのさらに先にある社会全体の課題解決にも役立つことをめざしています。
その「さらに先」を考えるには、創造力と発想力が重要になります。サステナビリティ推進本部には、お客さまや業界の声を聞いて要望に応える「マーケットイン」にとどまらず、社会全体の課題を把握し、その解決のためにどう対応していくかを考える「アウトサイドイン」で発想することが求められています。
脱炭素の取り組みについていうと、いま欧州では気候変動対策として厳しい法規制の動きが出ています。自動車に関しては、日本で主流のハイブリッド車も2035年以降は販売できなくなります。この動きを見て、国内でも経済産業省、国土交通省、環境省などが法的な枠組みをつくろうとしています。そうした動きをいち早くキャッチしつつ、長期的かつ社会全体を見渡す視点で課題を見つけ出す。それを社内に正確かつタイムリーにインプットして、国内外のグループ会社が一つになった取り組みを推進していくのが、サステナビリティ推進本部の役割であると考えています。
玉根敦司
サステナビリティ推進本部長
(写真/関根則夫)
鉱山のCO2排出量を実質ゼロへ協業で高い目標へ挑む
発足から2年半が経過しましたが、いまサステナビリティは社会的にスポットが当たっているため、当初に比べて社内でも理解してもらえる土壌ができたという感覚を持っています。
そんななか、スイスのABB社と共同で温室効果ガスの排出量実質ゼロへの貢献をめざす「ネット・ゼロ・エミッション・マイニング」という意欲的で野心的な目標を掲げています。これは実現しなければなりませんし、実現できると思っています。ただ、ある程度の時間はかかるでしょうし、さまざまな関係者と力を合わせて継続的に取り組んでいかなければなりません。そこに向けて、CO2削減に寄与するソリューションについては、開発でき次第積極的に適用していく考えです。
2020年からの新型コロナウイルス感染症の拡大において、医療従事者の皆さんをはじめとするさまざまな立場の方が「エッセンシャルワーカー」として注目されました。私としては、日立建機の仕事も「エッセンシャルビジネス」であると考えています。
当社は建設機械を単に設計開発して販売しているだけでなく、機械を扱うお客さまの安全性や生産性向上、コスト低減などに寄与するソリューションも提供しています。その提供先であるお客さまは、土木・建設、農業、林業をはじめとして、暮らしに不可欠な分野に携わっています。また、昨今は豪雨による水害が増えており、その復旧にも当社の油圧ショベルが使われています。こうした、世の中の基礎となる部分を当社の機械やソリューションが担っているわけですから、まさにエッセンシャルなビジネスであると思っています。
地球と社会の現在と未来に貢献する仕事であることを強く意識し、大きなやりがいを感じながら、これからも日々取り組んでいきます。