特集 - 未来の現場を創る 日立建機のICT施工ソリューション
今、世界中ではあらゆる産業のデジタル化が加速している。
建設業でも人手不足を解決する手段として、デジタル活用が注目されているものの、なかなか浸透していないのが実情だ。
今後、建設業の生産性や安全性の課題を解決し、変化し続ける市場環境に対応するためにも、ICTを主体的に活用したい。
手軽に導入できるICT施工活用のヒント、世界のICT施工の潮流などを紹介する。
文/太田利之 イラスト/二階堂ちはる
i-Constructionの活用が進み着実に成果が出ている。
今後その流れは、小規模工事や民間工事へも波及していくだろう。
日進月歩の技術進化を背景に変革の波は駆け足でやってくる。
今回は、そのための心構えについて、立命館大学理工学部の建山和由教授に話を伺った。
立命館大学
理工学部 環境都市工学科 教授
国士交通省i-Construction 委員会 委員
建山和由氏
1980年京都大学工学部土木工学科卒業、京都大学工学部助教授を経て2004年から立命館大学教授、2013年から学校法人立命館常務理事。専門分野は建設施工学、情報化施工、建設新技術開発、地盤工学。国土交通省 情報化施工推進会議 委員長、公益社団法人 土木学会建設用ロボット委員会 委員長などを歴任し、ICTの導入による建設の合理化に取り組んでいる。
――i-Construction開始から5年が経過しましたが、その成果や達成点を教えてください。
建山氏 i-Constructionは建設業に対する従来の3K(きつい・汚い・危険)を払拭して、魅力ある業界をめざすために2016年にスタートしました。i-Constructionの狙いの一つは、3次元設計データを測量から施工、運用・管理まで一気通貫で活用し、現場の生産性向上を実現するというものです。内閣府の「官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)」の後押しもあって、建設現場で実用できる遠隔検査や遠隔操作、ロボットなどの技術開発も進んでいます。
――ICTを活用した安全性向上の取り組みも増えているようですね。
建山氏 VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を活用した安全衛生教育も充実しています。建設業労働災害防止協会(建災防)では、実際のヒヤリハット事例をデータベース化し、仕事の負荷や心身の状態などを含む労働災害の背後要因の共有化を図っています。さらに、これらをAIで分析し、危険要因を察知した時点で警告を発するなど、予防保全的システム開発も始められようとしています。ベンチャーの参入もあり、建設現場で新しいデジタル技術が普及していることを実感しています。これはi-Constructionスタート当初には想定していなかったことです。
――ICT施工は国土交通省の直轄土木工事の約8割で実施されています。一方、小規模工事では、その実施率が伸び悩んでいますが……。
建山氏 投資コストを考えると、なかなかICT化に踏み切れないという現状が要因の一つでしょう。しかし、一連のプロセスで全面的にICTを活用するのではなく、測量だけ、施工だけと、部分的にICTを取り入れて、まずは使ってみることが大切だと思っています。スマートフォンで測量したデータから3次元データを生成したり、既存の建設機械にマシンガイダンス機能を後付けできたり、手軽で使いやすいICT施工ソリューションもどんどん出てきています。着手できるところから始めて、まずは自分たちのノウハウとして蓄積し、いいツールやその使い方の情報はみんなで共有していく。スモールスタートで徐々に普及していけばいいのです。
少ない人数でより大きい仕事を
――現場の働き方を変えるのは、まずは意識改革が必要なのですね。
建山氏 その通りです。旧来の労働集約的な考え方から「安全に、ラクして儲ける」という発想の転換がICT化普及のバネになります。
――ではICT活用で働き方は、どのように変わっていくでしょうか?
建山氏 除雪作業でICTを活用している例を紹介しましょう。今、除雪オペレータの人財確保も難しくなっています。まだ開発段階ではありますが、2人1組での作業が必須だった除雪作業を、除雪機にマシンガイダンス機能等を搭載し、3次元地図データを活用したところ、1人のオペレータのみで仕事が実行できた事例があります。うまく活用が進めば人員削減をして効率がアップした成果を、報酬に還元することもできますよね。こんなふうに、今までよりも「ラクに2倍の仕事を1人でこなす」ことを考えるべきです。
――現場の困りごとを、ICTでどう解決していくかを考えることが大切なのですね。
建山氏 はい。例えば「人員削減」や「工期短縮」のために、どんな技術を使うかを議論するプロセスが重要なのです。ICT化を目的にしてはいけません。現場の困りごとを洗い出し、その解決のための“カイゼン”議論を進めること。そのための手段としてICTを活用するというスタンスが大切です。
――カイゼンへの視点をどのように築いていくべきでしょう。
建山氏 トヨタ自動車が工程間のムダを削ぎ落とすために体系化した「リーン生産方式」が参考になるでしょう。リーン生産方式では、①付加価値作業、②付随作業、③ムダの3種類に分類して、工程全体のトータルコストや工期を圧縮しています。これを道路土工に当てはめると、①の付加価値作業は工事の本質的な作業で、建設機械を使った掘削や運搬、敷き均し、締固め作業のことです。これを合理化しようとすると、機械そのものを建設ロボットなどに置き換える必要があり、大がかりなカイゼンが必要です。②の付随作業は、付加価値作業を遂行するうえで必要な、測量や書類作成、出来形計測といえます。例えば工事進捗を示す手書きの工事黒板をやめてデジタル化して現場作業を省力化したり、土砂の積載データから報告書を自動作成したり、付随作業をデジタル化することで、作業者は本来の仕事に専念でき、全体の工数も圧縮できます。③のムダは、工程間の検査に伴う待ち時間など、本来必要のない作業のこと。コロナ禍でリモート環境が普及しましたが、建設現場でも映像を用いて現場の確認をする「遠隔臨場」への関心が集まっています。検査立ち会いの移動時間がなくなるので、ムダを削減できる好例といえるでしょう。「不便」や「面倒」なことを見つけてカイゼンすることが、先ほど申し上げた「安全に、ラクして儲ける」という発想につながるのです。
――今後の建設業におけるICT活用への期待をお聞かせください。
建山氏 製造業では、1990年代にファクトリー・オートメーション化が進んだのに対して、建設業界は自動化で遅れをとりました。確かに、一定の製品を安定的に生み出す製造業と違って、自然環境を相手にし、地面は掘ってみなければ詳しい地質が分からないなどの不確定要素が多い点も、それを阻害してきた要因です。しかし、今後はAI活用で、現場の状況に応じて自律的に判断する機能が作業を支援してくれるでしょう。さらには、AIによる建設機械の自律化、省人化が進むことも期待しています。
――ICTやAIの活用が進むと、若い人たちにも大きな魅力がある業界になりそうですね。
建山氏 産学連携やオープンイノベーションが強くなれば、土木・建設分野だけでなく、情報処理や電子分野の学生たちが、この業界を志望するケースも増えることでしょう。中小企業では、デジタルスキルに長けた外国人留学生の雇用も選択肢となるかもしれません。ICT化へ向かってこれから大きな変革期に向かうこのタイミングで、人も、知識や技術も、交流をどんどん進めるべきです。ダイバーシティ&インクルージョンが広がって建設業界がより活性化し、新たなイノベーションにつながることを期待しています。
道路施工作業の“カイゼン”イメージ
①付加価値作業
工事の本質的作業
- 無人化施工システムや建設ロボットを活用した効率化や省人化など
②付随作業
付加価値作業を達成するために必要な作業
- 測量、現場写真の撮影・管理、書類作成業務の合理化など
③ムダ
本来必要のない作業
- 工程間の調整時間、検査待ち時間などのムダの排除