特集 - どうなっている? 海外のICT施工
i-Constructionが旗振り役となり徐々にICT施工が拡大する日本。
一方で、欧州でも先進的にICTを活用している。
日本・海外でICT施工がどう進化しているかを比較しながら、活用のヒントを探る。
日立建機ヨーロッパ
Solution Linkage
マネージャー
栗原 亮
Topic_1
ICT施工はどう普及している?
生産年齢人口の減少における建設業界全体の人手不足、そして社会インフラの老朽化が進む日本において、建設現場での生産性向上をめざすために国が主導して2016年にスタートしたi-Construction。測量から設計、施工、管理のプロセスでICTを導入する一連の流れを指す。国土交通省管轄の公共工事では、ICT施工が普及。2018年には内閣府の「官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)」の一環で、AIやIoTをはじめとした新技術を活用し、建設にかかわる業務の生産性向上の取り組みも加速した。民間工事や小規模施工へのさらなる拡大が期待されている。
欧州でも先進的にICT施工を活用している。北欧のフィンランドやノルウェーでは、日本と同様に熟練技術者の人財不足、生産性向上などの課題が顕在化しており、2000年代にいち早くICT施工を取り入れた。イギリスでも、生産性と安全性の向上のために、半自律運転技術を活用してベテランオペレータへのさらなる支援を強化したり、ドローンを活用したりして現場の人員削減を進めている。その流れは、フランス、ドイツ、オランダでも拡大している。業務の効率化や省力化のため、民間がICT施工を主導しているのが特徴だ。
海外で特に急速に進んでいるのがBIM(Building Information Modeling)/CIM(Construction Information Modeling)だ。建造物の計画段階から3次元データを使って、一連の工事に関わる全てのプロセスを情報化して管理するプラットフォームで、欧州のプロジェクト管理では一般的になっている。イギリスは官庁発注の土木建築工事の一定規模以上の設計と施工に対して、BIMを義務化。欧州各国でもBIMの義務化の流れが進む。シンガポールでは確認申請は全てBIMでの電子申請を義務化するなど、アジアでも拡大傾向にある。日本はこれから本格的に取り組んでいこうという段階だ。
Topic_2
グローバルでも「お客さまに寄り添う」姿勢を追求
世界に目を向けても、就労人口の減少傾向が進んでおり、現場の「安全性確保」「生産性向上」「ライフサイクルコスト低減」を求める声は高まっている。日立建機はそんな声に寄り添い、より簡単な操作で安全性と生産性を向上させるICT機能の拡充とサポートに力を入れる。欧州ではICT施工の技術支援は、各測量機器メーカーがお客さまに直接提供しているケースが多い。そのなかで日立建機英国では、ICTのスペシャリスト「HCT※ engineer」を育成し、ICT建設機械やアタッチメントの機器設定や全般のサポートなどに対応している。国によってお客さまのICTに対するスタンスやスキルは異なる。正しい知識と経験を有したコミュニケーションで、課題に応じたサポートを図る姿勢を大切にしている。
※ Hitachi Connected Technology
Topic_3
データの利活用で、施工管理を効率化
DXの一環として建設機械に移動体通信システムを搭載し、位置とパフォーマンスをモニタリングするためのテレマティクステクノロジーの活用が、欧米で急速に発展している。実際の現場では、さまざまなメーカーの機器が混在しているケースも少なくないが、すべての機械データを一元的に把握・確認する必要性がある。そんなニーズに応えるために日立建機ヨーロッパでは、大手テレマティクス企業のABAX社と独自の運行管理システム(右図)を開発。また、同時期に機械とデータ管理の最適化を実現するAPI(Application Programming Interface)を日立建機と開発している。これらのシステム同士が連携することで、お客さまは24時間ごとに受け取っていたデータを、10分ごとに受け取れるようになった。ユーザーはデバイスを選ばないフリート管理ソリューションで、すべての建設機械や工具、車両、その他の資産の場所と運用情報をモニタリングすることができる。さらに機械のライフサイクルコスト低減のニーズに対しては、日立建機のサービスソリューション「ConSite」の遠隔監視との連携で、燃費やCO2の見える化なども可能になっている。
イギリスの大手ゼネコンは、現場の効率化とライフサイクルコストの削減のためにAPIを活用し、実際にアイドリングタイム削減や、燃費削減を実現している。フランスでも需要は急速に拡大し、砕石現場でAPIを利用。世界では施工管理の効率化・高度化が進んでいる。
Topic_4
ICT建設機械の動向
i-Constructionの普及が進み、多くの建設現場でICT建設機械が導入されるようになった。ICT建設機械には、3次元設計データを利用して機械をリアルタイムで自動制御しながら施工を行う「マシンコントロール(MC)」と、位置情報を利用して操作をサポートする「マシンガイダンス(MG)」の2つがある。このICT機能を搭載した日立建機の油圧ショベルZAXIS200Xは、国内ではお客さまから購入・レンタルで広く利用され、信頼を得ている。その最新型が、ZX200X-7型機。日立建機の制御技術を集約したマシンコントロール技術により、オペレータの熟練度にかかわらず、高精度な作業を実現できる。日本国内で提供してきたICT油圧ショベルは、欧州各地でデモンストレーションを重ね、欧州市場での普及をめざしている。
日本では、作業内容に応じて建設機械を変えることが多い。対して欧州では作業に応じて、油圧ショベルの複数のアタッチメントを使い分けている。なかでもチルトローテータを装着することはもはや常識ともいわれている。チルトローテータとは、バケットを任意の角度で回転させて多種多様な作業を可能にする油圧ショベル用のアタッチメントのことだ。狭所工事が多い欧州では、機械のアングルを変えることなく、手元の動作で効率的に作業ができる点が特に評価されている。フランスでは、スロープの角度形成や、ガス管の深さを確認しながら側溝を掘るなどの作業で活躍。活用場面が広く、現場作業の効率化や燃費向上にもつながり、バケット交換も少なくてすむ点からも環境への親和性が高い機能だ。日立建機英国では、チルトローテータのマシンコントロールも可能なICT油圧ショベルを提供するなど、各地域での作業ニーズに合わせたICT化への対応を急いでいる。
人と機械が協調する未来へ
~自律運転と遠隔操縦~
省人化による生産性向上と安全性確保の両立を実現するために、建設機械の「自律運転」への期待が高まっている。「人と機械が協調する」をコンセプトに未来の施工現場像を描く日立建機は、自律型建設機械の開発と機能拡張を容易にするシステムプラットフォーム「ZCORE」を開発した。これは、現場オペレータの「認識・判断・実行」という一連のプロセスを機械システムに担わせるものだ。「ZCORE」の構成は大きく2つ。各種車載センサーや通信ネットワークから情報を収集し、判断する「情報処理プラットフォーム」。その判断に沿って機械の油圧機器や動力機器の最適な動きを司る「車体制御プラットフォーム」だ。日立建機は拡張性・成長性に満ちたこのプラットフォームを活用し、自律型建設機械の開発を加速させながら、現在のお客さまニーズに応える機能追加や拡張を進めていく。一方で、現場におけるオペレータの安全確保やリモートワークの実現、さらに人が入れない災害現場での活躍などの施策として、遠隔操縦への期待も拡大している。そこで、現場と遠隔オフィスをつなぐ伝送路開発にも注力。「Solution Linkage Wi-Fi」の無線LANをはじめ、5Gの一般回線上で1人のオペレータが同一の遠隔操縦席から、工程ごとに異なる複数の機械を操縦し分ける装置の実証実験などを推進。来るべき明日の施工環境を準備している。