特集 - DXで実現する、新たな働き方と価値創造
日立建機では、パソコン上の定型業務を処理してくれるロボット「RPA」とマイクロソフト社の業務ソフト「Office 365」を活用した業務改革を推進し、効率化と生産性向上、そして新たな働き方の実現に取り組んでいる。
社内業務のDXにおいてカギとなるこの2つの取り組みに迫った。
人が行う繰り返しの作業を自動化すれば、定型業務にかかる作業時間を減らせるとともに、生まれた時間を人にしかできない業務に充てることが可能となる。「デジタルツールを駆使して業務プロセスを変え、働きやすい環境をつくっていくためにDX推進本部のオフィス改革グループでツールを試し、良いものを社内に紹介して、活用を促進しています」と谷川は語る。
従来であれば、定型業務を自動化するシステムやアプリの開発はIT部門に依頼するのが当たり前だったが、オフィス改革グループが推進しているのは、各部署の従業員自らが率先して開発する状況に変えていくことだ。
RPAを使った取り組みは2018年下期にスタートした。専門的知識・技術がなくてもロボットを開発できるRPAソフトウェアを導入。まずはどういった業務をRPAに置き換えられるか、半年ほど全社で募ってみたが「当初はなかなか集まりませんでした」と谷川は明かす。そこで2019年に全社で定型業務洗い出しを実施。すると約4,000件、2万4,000時間分に相当する定型業務が挙がってきた。これを機に取り組みが急増し、現在は各部署で自らの業務に合わせたロボットを開発して改善を推進している。「特に件数が多いのは生産調達本部で、2022年3月時点で開発したロボットが104件、改善された時間が1,279時間と、RPA活用が顕著に進んでいます」(谷川)
一方のマイクロソフトの業務ソフトOffice 365の導入が始まったのは2018年。Office 365に含まれたさまざまなツールの有効活用に向け、まずはチームでの会話チャットやビデオ会議ができるMicrosoft Teamsによって、業務の効率化を考えていった。「会わなくてもいい会議は会わずに済ませるようにしよう、というのが出発点です。ですが、メールとの違いがなかなか理解されず、利用者も増えなかったので、最初は手応えがありませんでしたね」と工藤は振り返る。ただ、その後はコロナ禍の影響もあってMicrosoft Teamsが浸透し、タスク管理などほかの機能も利用され始めた。さらにここ2年ほどは、自部署の業務改善に役立つアプリを手軽に自作できるPower Platformの活用推進に取り組み、実際に一部でアプリ内製も始まっているという。
社内のRPAアワードを開催し、利用を促進
RPAについては、優れた取り組みを表彰するRPAアワードを実施したこともあり、各部署のニーズに即したロボット開発の動きが順調に浸透しているようだ。対して業務アプリ内製は「まだまだ道半ばですね」と工藤。「特に業務部門は、興味はあってもやはりハードルがあり、私たちへの問い合わせでさえ身構えてしまうようです。ですから、“こういうことをしたいんだけど”という程度でいいので、とにかく気軽に何でも相談してくださいと発信しています」。Power Platformで作るアプリの事例も、まずは高度なものよりワンクリックで申請・承認ができる検温アプリなど簡単なものを紹介して、身近さを実感できるように心がけている。
デジタルによる業務変革の目的は、従業員の働き方改革を実現し、生産性を高めることだけではない。「お客さまへの寄り添い方を考え、行動する時間を創出することで、最終的にお客さまの課題解決につなげられます」(谷川)。「社内業務が効率化されると、対応時間の短縮や精度向上、原価低減を達成でき、結果としてお客さまに貢献できます」(工藤)。オフィス改革グループではそうした考え方のもと、今後も従業員全員参加に向けて、社内業務DXの取り組みを進めていく。
※Microsoft Teams、Office 365、Excel、Outlook、Power Platformは、米国Microsoft Corporationの、米国およびその他の国における商標または登録商標です。
成功のカギは内製化にあり
~社内DX取り組み事例~
日立建機では従業員自らが自動化ロボットやアプリケーションを開発し、業務を改善している。
その一部を紹介する。
RPAで月28時間の間接作業を自動化
パワー・情報制御プラットフォーム事業部
機器生産技術部
IoT推進係
佐藤 淳
生産や製造で定常的に発生する間接業務を自動化するためにRPAを導入しました。製造で使用した経費を集計し、現在の作業量と比較して使用具合が適正かを確認する、経費発注品の納品状況を関係者に周知するといった業務を自動化しています。
RPA導入以前は、データの収集、集計、連絡といった業務を手作業で行っており、そこに多くの人的リソースを費やしていました。導入後の効果の一例としては、経費管理に関するRPAでは1,680分/月の間接作業を自動化できるようになりました。
RPAが業務を代替してくれるようになり、人の意思決定を要する業務により多くの時間を割けるようになりました。さらに、開発で使用したマクロ作成のスキル向上につながりました。今後、RPAはより身近なものに進化していくと思いますので、皆さんもぜひ触れてみてください。
ルーティン業務の時間を軽減
部品・サービスBU カスタマーサポート事業部
CS企画部
業績プロセス管理グループ
閔 嘉銀(ミン ガウン)
私は、部品サービスにおけるグループ各社の日々の売上収集・分析、および予算作成等の業績にかかわる業務を担当しています。各社の基幹システムから日々の部品サービスの実績を取得して見える化、さらにデータ配信までの作業を、RPA活用で自動化しました。
以前は、グループ各社で統一された基幹システムが導入されていなかったため、日々のデータをまとめて取得することができませんでした。データ取得後もデータ更新や修正に多くの工数がかかっていました。RPAの導入により、従来までは週次、月次のサイクルであった業績が毎日把握できます。また、データが連携されていないなど異常値がある場合は、メールでアラームの配信を設定することで、速やかな対応を可能とする体制が構築できました。RPA活用により、多くの時間が節約されたおかげで、データの分析と、その活用方法を考えることに集中できるようになりました。
「これ無駄?」がカイゼンのチャンス!
DX推進本部
DX改革統括部
DX業務改革部
宮川絵美
新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、日立建機では毎日始業時に検温記録を上長へ報告することが必須となりました。コロナ禍になった当初はExcelベースで運用し、申請と承認をメールで行っていました。このひと手間を少しでも省くためにPower Platformを用いて、1クリックで上長へ報告、上長も1クリックで内容確認と承認ができるアプリを開発しました。検温のほかに作業場所や上長への連絡事項を入力する欄を設け、コミュニケーションも図れるように工夫しています。
難しいと思っていたアプリ開発でしたがDX推進本部のサポートもあり、プログラミング経験がなくてもアプリを作れたことは、私自身のスキル向上につながりました。
「この作業、ちょっと面倒……」「これ無駄だよね?」と思ったなら、それがカイゼンのチャンスです。ちょっとしたカイゼンが積み重なることで、生産性を上げることができると思います。
DXで「ちょっとした便利」を実現!
人財本部
総務部 秘書グループ
秋丸弘子
私は秘書担当として、当社役員のスケジュール管理やそれに付随する各種手配調整をしています。これまでは役員が出席する会議や各種行事などを、一つひとつOutlookのスケジュールに登録するのに、大きな労力がかかっていました。そこで年間の役員会議をOutlookに一度に自動登録する仕組みを取り入れました。その他にも、オンライン新聞で掲載される慶弔情報を自動的に把握する仕組みや、役員情報更新の一部自動化など、今までの業務が少しラクになるツールを複数導入しています。
この開発を機に、RPAやマクロなどの知見が増えました。またDX推進本部の皆さんとのコミュニケーションがこれまで以上に円滑にできるようになったことも獲得できた大きなものの一つです。DXというと、革新的な仕組みや高いハードルをイメージすることが多いと思いますが、私たちの部署で導入しているような、「ちょっとした便利」の実現もDXの醍醐味だと思います。