特集 日立建機 米州での躍動
建設機械の本格生産から72年目で迎えたグレート・チャレンジ(偉大なる挑戦)を完遂へ―。
日立建機は1988 年から約35年続いた農機具世界大手の米ディア・アンド・カンパニー(以下「ディア社」)との提携関係を解消し、2022 年3月から米州(北米・中南米)全体で全事業の独自展開が始まった。そこには大いなる試練とともに、極めて巨大なチャンスが待ち受けている。
米国での特別取材を基に「新生・日立建機アメリカ」の現在をリポートする。
文/三河主門 写真/関根則夫
Overview / story in Americas
建設機械の本格生産から72年目の“Great Challenge”
米州全土での独自事業展開で「未来をつかむ」
米ニューハンプシャー州ミルフォード郊外にある採石場。オレンジ色の車体に白い『Hitachi』ロゴのある大型油圧ショベル「ZX350」が唸りを上げている。「非常にシンプルな操作性で、パワーも強く作業がスムーズだ」と、降りてきたオペレータが話す。英語で「Excavator(エクスカベーター)」というこの油圧ショベルこそ、日立建機が米州で新事業を独自展開する上で象徴的な製品だ。
日立建機はディア社との事業提携で、日本で生産した油圧ショベルをディア社の色に塗装し輸出。それをディア社が米州各地に築いてきたディーラー(販売代理店)網を通じて販売してきた。
だが提携解消によって、米州事業のすべてを日立建機が自前で推進する立場となった。顧客となるディーラーや市場の状況を把握でき、各地の工事現場の事情や、そこで必要となる部品の情報も入手できる。現地のお客さまが求めるものを提供できる体制を組めるのだ。
最大のメリットは、日立建機のサービスソリューション「ConSite (コンサイト)」で集める機械の稼働状況や保守データを自社で管理できることだ。
建設機械は2010年代から、顧客情報を起点に「バリューチェーン」を構築することが利益の源泉になっている。
工事現場での作業効率化や、長時間の連続稼働を望む顧客に寄り添い、保守や交換が必要になる時期などのデータを、ディーラーと共有し、部品などをタイミングよく用意して、いち早く届けること。さらに建設機械の安全性確保や電動化、自律運転などの技術もサポートすること。こうした取り組みが顧客満足度を高め、さらなる新規顧客の開拓にもつながる。
米州は世界最大市場であり、ここでお客さまと関係を深めることがグローバル戦略には不可欠だ。何しろ米州は世界で約10兆円の建設機械市場のうち建設分野の4割、マイニング分野の3割を占める巨大市場。しかも小型の油圧ショベルから超大型鉱山機械まで、あらゆる製品ラインアップが売れるからだ。
2022年3月期の日立建機グループの連結売上高で北米地域販売は17%と、まだまだ拡大の余地がある。「米州で事業を独自展開できなければ将来はない」と考え、2017年から提携解消に向けてディア社と交渉してきた。
米州独自展開に3つの追い風
両社が提携解消を発表したのは2021年8月。そこから解消期限となる22年2月末まで、日立建機は急ピッチで米国内の体制を再構築してきた。
日立建機にとって、米州事業の再構築には3つの追い風が吹いている。1つは2021年11月に米国で成立した「インフラ投資法」だ。ジョー・バイデン米大統領が「次世代の国際競争に勝つため」として、道路や橋、公共交通機関(鉄道やバス)の整備などの老朽化したインフラの再建・強化に総額規模1兆ドルを充てる政策だ。北米では米国を中心に、その巨大な建設・土木工事の大波がまさに動き始めており、建設機械需要の増勢が見込まれる。
2つ目が資源・エネルギー価格の高騰によって鉱山開発が活況を呈していることだ。“脱・石炭”の傾向が強まり石炭採掘は停滞気味だが、中南米の銅、鉄、金などの金属鉱山向けや、北米のシェールガス開発向けに大型の鉱山機械の需要が堅調に拡大している。
そして3つ目の追い風が「円安」だ。
完成品から部品まで日本の国内工場で生産して出荷されるため、円安メリットを享受しやすい環境にある。
「REPUTATIONS ARE BUILT ON IT」(信頼の証を乗せて)―。日立建機が2017年に米州でホイールローダの独自販売を始めた時のスローガンだ。今回、「米州での独自事業展開」に乗り出す中でも、このスローガンは旗印となる。
日立建機は絶好のタイミングで、悲願だった「独立独歩での米州事業展開」に乗り出した。22年3月から独自展開をスタートしてからどのような変化が起きているのか、見てみよう。