Chapter 2 - 販売拡大へ
パートナーシップを強固に
部品供給やレンタル事業も拡大
日立建機アメリカのアル・クイン社長が「今回の米州事業の自社独自展開で最大のチャレンジになる」と語るのが部品事業の基盤整備だ。工事現場では土やコンクリート、鉱山では岩などを掘削したり運搬したりするため、油圧ショベルならアーム先端に取り付ける「ツメ」などのバケット部品や、足回り部品を中心に消耗が極めて激しい。
利益率の高い部品事業を強化
こうした部品を販売する事業は、消耗品であるだけに流量も多い。日立建機の2022 年3 月期の業績をみても、建設機械向け部品サービスや鉱山機械向けの部品サービス部門は連結売上高のそれぞれ10%、合計で20%を占めるほど、割合の大きな事業となっている。
ただ、これまではディア社が部品供給を担っており、日立建機は直接的には部品事業を展開できていなかった。「ディア社に日立建機の純正部品を供給することもありましたが、数は限定的でした。ほぼゼロから部品事業を立ち上げる必要があり、これはクイン社長が言うように最大の挑戦でした」。こう話すのは、日立建機アメリカの副社長でカスタマーケア担当の田中大慶だ。
日立建機アメリカは部品倉庫をジョージア州ジャクソンに開設した。ディア社との提携解消が発表された21年8月19日から、日立建機が独自事業に乗り出す22年3月1日まで、わずか5カ月余りでの完成だった。「お客さまの要請に応じて部品を欠品なく届ける稼働率を『フィルレート』といいます。当社が22年3月から部品供給を始めてみると、まだまだ行き届かない面もありますが、フィルレートはようやく納得できそうな数字が出るようになりました」(田中)と、手応えを感じ始めている。
田中は「もっと現場の事情が分かれば、カスタマーサポートを確実に充実できる」と確信しているという。「現場でのテクニカルサポートは、実際に機械を設計・製造してきたメーカーである我々の方が優れていると自負しています。今後は現場の事情を理解して、それに合う部品を用意して素早く届ける体制づくりにも注力しなければならない。米州の各現場で、稼働を止めずに工事をより効率化できる部品を、当社ならもっと供給できるはず。今後はそれを証明したいですね」と田中は述べる。
日立建機は2016年12月に、米H-Eパーツ・インターナショナルと、豪ブラッドケンを買収した経緯がある。いずれも米州での鉱山機械向け部品供給に高い実績を持つ会社で、両社の販売する製品や部品供給のノウハウを生かし、連携して市場の開拓に取り組んでいる。
そして部品事業でもConSiteのようなテレマティクス技術を活用したサービスソリューションを導入していく計画だという。田中は「定期交換品ではない部品の構造物疲労を判断する『ConSite Mine(コンサイト・マイン)』という技術を広めたいと考えています」と打ち明ける。滅多には壊れないが取り替えるとなると高額な部品は、交換時期がいつくるのか、これまでは把握できなかった。急に必要になっても配送に時間がかかり、現場の稼働を止めてしまうリスクがある。「交換時期がある程度分かれば、日本の部品センタから持ってきて最善のタイミングで遅延なく届けられます。そういうシステムを説明すると『それは面白い、ぜひ導入したい』と積極的なディーラーも多く、これがアメリカの強さだなと実感させられましたね」(田中)
日立建機がトップランナーとして、部品事業をどう拡大するか、田中は知恵を絞っている。
Simon Wilson
Vice President Sales
田中大慶
Vice President, Customer Care
中南米でもレンタル事業参入へ
日立建機が米州事業として、もう1つの柱として育てようとしているのがレンタル事業だ。それも北米だけでなく、「中南米でも需要があると考えている」と、セールス担当副社長のウィルソンは予測する。「北米はインフラ整備や再生可能エネルギーの発電施設などで使う建設機械の需要が、今後数年間は非常に強い。そして中南米でも各国の経済が拡張期にあり、鉱山開発だけでなく建設工事需要も拡大が見込めます。レンタル事業が大きな部分を占める可能性があるでしょう」とウィルソンは説明する。
今後、南米のいくつかの国でレンタル事業に参入するアイデアがあるが、焦点となるのは北米だと明かす。日立建機アメリカのレンタル事業者向けの営業担当マネジャー、ジェイソン・ミゼン(Jason Mizen)は「レンタル部門は成長を続けていく。レンタル会社向けの新車販売も含め、将来的には売上の約3割にまで高めたい」と話す。
建設機械レンタル事業者への機械の納入は、2017年から日立建機アメリカが単独で始めたホイールローダではすでに多くの実績がある。ウィルソンは「北米で培ったレンタル事業の専門知識を生かし、これから盛り上げていく中南米で日立建機アメリカは重要な役割を果たすことが可能です。その初期段階に参入し、新しいアイデアを提供し、市場の成長をサポートできるチャンスです」と力を込める。
中南米では国によって求められる機械のサイズは異なるが、すでにディーラーなどからは「日立建機と組みたいとの申し出がたくさんある」とも述べ、今後は具体的な交渉に入っていく計画だ。