米州建設機械 最前線
日立建機にとって、ディーラーやお客さまと交流を深めながら、どんな製品、技術、部品、サービスが現地で必要なのかを探ることは事業を拡大する上での至上命題だ。
米州で日立建機製品を取り扱っているディーラー、日立建機製品を現場に導入しているお客さまに話を聞いた。
1. From New Hampshire
Dealer's Voice
Company: Chappell Tractor Sales
日立建機への高い信頼性を武器にお客さまの開拓を急ぐ
ニューハンプシャー州ミルフォード市の針葉樹の森を通る国道13号線沿いに洒落た三角屋根がある白壁の社屋が建つ。中には小さなホームセンターを思わせるショールームがあり、小型の建設機械やトラクター、関連のグッズや、オリジナルのアパレル用品を売るコーナーもある。
同地に本社を置く建設機械の大手ディーラー、チャペルトラクター社(Chappell Tractor Sales)は、ニューハンプシャー州のほかマサチューセッツ州、バーモント州などで事業を展開する。全米有数のディーラーで、日立建機ブランドの熱心な「エバンジェリスト」になった1社だ。
「日立建機が独自販売を始めてから5カ月で、お客さまからは数十台の受注がありました。パワーとハンドリング性能の高さと、この地に根付いている日立建機ブランドへの信頼性ゆえでしょう」
そう話すのは、チャペルトラクターの4代目の社長となったコーリー・チャペル(Corey Chappell)氏だ。チャペルトラクターは建設機械や農機具の新品や中古品のほかレンタル、部品販売、保守・修理サービス、購入資金ファイナンスなどを手掛ける。敷地内には多くのメーカーの中型~大型油圧ショベルが並び、その中に日立建機の「ZX490」「ZX250」などが複数台、出荷待ちの状態にあった。「1980~90年代に日立建機製品を非常に多く売った別のディーラーがあり、製品力の強さや優良なブランドイメージが当地には残っています。口コミや人脈の紹介によって信頼を醸成するつながりが重視される土地柄も、日立建機ブランドの追い風になっていると思います」と、同社のフリップ・ヘンリー(Flip Henry)営業本部長は話す。
ディーラーと顧客の声を聞くのが成功のカギ
日立建機がディア社との提携を解消した際、大きな懸念事項が「米州各地に販売拠点を持つディーラー網をうまく引き継げるか」だった。チャペルトラクターは、提携解消後も日立建機の製品を扱い続けることで合意。日立建機は単独での事業展開に船出した初日からスムーズに製品販売に乗り出せた。
継続を決めた理由を、ブラッド・チャペル(BradChappell)副社長は「日本の日立建機本社が米州で従業員を3倍以上に増やし、日本からも人財を多く送り込み、部品事業や販売店支援などの投資も増やしてコミットするという情報は、日立建機アメリカの担当者を通じて聞いていました。その本気度を見て我々も日立建機との関係継続を決め、優れた製品やサービスを販売することで自社のビジネスをもっと拡大できると考えたのです」と説明する。
さらに、ヘンリー氏は北米市場での成功のカギが「まさに販売店やお客さまの声を聞くことにある」と強調する。「日立建機は皆さんが想像する以上に強いブランドと認知されています。例えば、チャペルトラクターは、非常に先進的なチルトローテータなどのアタッチメントを顧客に提供しています。なぜなら、市場の現場ニーズに合わせた油圧ショベルを提供する必要があるからです。だからこそ、日立建機アメリカもディーラーと顧客の声に耳を傾けてほしいのです」
Customer's Voice
Company: Leighton A. White, Inc.
エンドユーザーにコスト負担を強いないシンプルな操作性能に感心
チャペルトラクター社のお客さまは日立建機をどう見ているのか。同じミルフォード市が拠点のレイトン・A・ホワイト社(Leighton A.White, Inc.)は、チャペルトラクター社の重要顧客の1社だ。建設・土木工事業のほか建設資材や造園資材の開発・販売が主力事業で、ニューハンプシャー州と州都ボストンがあるマサチューセッツ州の北部を地盤にビジネスを展開している。
「父が1978年に創業し、最初はボストンに拠点を置く企業や資本家がニューハンプシャー州で所有していた農園の管理や工事から会社の歴史が始まりました」と話すのは、2代目のデール・ホワイト(Dale White)社長だ。「後に競技場の建設や大規模な造園業に参入し、そこから建設用に建設機械を購入し始めました。これまでにチャペルトラクター社からは200台以上を購入したと思います」(ホワイト氏)
Dale White President
鉱山向け機械で最高級のイメージ
50人の従業員を抱え、所有する機材は建設機械とトラックを合わせて80台にも及ぶ。「財務担当者に怒られながら毎年4~5台を購入していますが、日立建機の2台は費用対効果がとても適正だと感じました」とホワイト氏は評価する。
自社の各種ビジネスの中で、ここ5年間で特に力を入れてきたのが砂や砂利、石材、コンクリート骨材などの建設資材事業だ。ニューハンプシャー州内で5つの砂利・砂採取場を運営しており、そのうちの1カ所で日立建機のホイールローダ「ZW370」と油圧ショベル「ZX350」が稼働している。
日立建機ブランドを選んだ理由を、ホワイト氏は「マイニング業界で『Hitachi』は最高級の製品を持っていると常々思っていましたから」と述べ、チャペルトラクター社を通じてホイールローダと油圧ショベルの2台を購入したと明らかにした。
仕事柄、チャペルトラクター社以外のディーラーからも他メーカーを含めて機械などの売り込みがあるが、ホワイト社長は「興味深いのは当社と競合する建設業社を含め、だれもが日立建機製品の使い勝手や性能に興味を持っていることですね」と打ち明ける。
実際の使用感はどうか。同社長は「日立建機のエンジニアは製品をシンプルにしている。ほかのメーカーはコンピュータを搭載して多くの機能を持たせたがり、操作パネルやボタンも複雑になっている」と述べ、こう付け加える。「操作パネルや機能が複雑化すると、故障時にダウンタイムが生じてエンドユーザーである我々に追加コストが発生します。日立建機にそれがないのは、『非常にシンプルだから』でしょう。日立建機はテクノロジーとボタンやハンドル類のバランスが取れていると感じます」
ホワイト氏からは現場を知る人ならではのさまざまなリクエストが飛び出す。「ニューハンプシャー州の法律で、建設機械の中にも消火器を設置する必要があるので、その置き場があると助かります。そして現場とオフィス、現場同士で連絡を取り合うための無線機も置いてほしいところです」
会社は家族経営であり、兄弟や息子らも日立建機の油圧ショベルを何度も運転しているという。「一番下の息子は、運転席内の冷房の効き方にはびっくりしていました。『肉を吊るしておいても大丈夫そうだ』と冗談を言っていました」と、ホワイト氏は笑う。
これまで見えていなかったさまざまな使い方をすくい上げていくことこそ、米州で事業を独自展開していくうえでの大きなチャンスとなりそうだ。
砂利の掘削・運搬で、日立建機の建設機械が活躍する。
2. From Ohio
Dealer's Voice
Company: RECO Equipment, Inc.
日立建機と「一緒に成長」を望むさらなる部品事業拡張にも期待
長い間『Hitachi』の復活を待っていました。ディーラーとして日立建機のパートナーとなれたことは非常にエキサイティングです。特に油圧ショベルの販売開始は喝采ものです。ご存じないでしょうが、日立建機の『オレンジマシン』を待っていた人は本当に多くいるんですから」
オハイオ州東部のベルモント市に本社を置くリコ・イクイップメント社(RECO Equipment, Inc.) のジョシュ・ギャスバー社長はそう話して、新生・日立建機の船出を歓迎した。同社は日立建機がディア社と提携していた時からのディーラーだが、提携解消後も日立建機のパートナーになりたいと契約を続けることになった有力ディーラーの1社だ。
リセール価値も高く購入誇れる
リコ社の商圏は極めて広い。オハイオ州全域のほかペンシルベニア州西部、ウェストバージニア州、インディアナ州、ミシガン州、ノースカロライナ州、サウスカロライナ州、バージニア州、ケンタッキー州、テネシー州、フロリダ州に27拠点を構える。建設機械の新品・中古品の販売のほか、部品事業やレンタル事業なども展開しており、従業員数は約330人。日立建機製品のほかには海外メーカー各社の製品を扱っている。
本社敷地内には日立建機の小型~中型の油圧ショベルやホイールローダの新車が数多く並ぶ。日立建機が米国で独自展開に乗り出した2022年3月1日から「250台を購入したいと発注しました」とギャスバー社長は話す。それだけの数量を発注したのも「日立建機製品は寿命が長く、信頼性が高くて評判も良く、リセールバリューも高い。建設機械に求められる多くの要素を満たしている。我々も日立建機製品を販売することが誇らしく、製品を購入した人も誇りを感じますから」と説明する。
オハイオ州は東部を中心に天然資源が豊富な土地だ。リコ社は1983年に現本社があるベルモントで創業。当初は石炭の露天掘りに使われる鉱山機械なども扱ったという。
アグレッシブな事業姿勢を歓迎
ギャスバー社長は1994年に同社に経理担当として入社し、倉庫の整理から始めて「その後は会社のほぼ全てのポジションを経験した」という。リーマン・ショックのあった2008年に当時のオーナーから株をほかの2人を含む3人で買い取り、その2人が引退した今年2022年に52歳で社長に就任した。現在は同社営業担当で副社長を務めるチャド・ギルマン(Chad Gilman)氏や、営業本部長となっているデイブ・トッターデイル(Dave Totterdale)氏らは「子どもの頃からずっと一緒にいる幼馴染み」であり、家族や仲間と経営しながら米国東部の広い地域に販売網を作り上げてきた。
ギルマン氏はリコ社と日立建機の関係について、「リコは1983年の創業当初から非常にアグレッシブな企業でした。同じようにアグレッシブなメーカーと付き合いたいと思ってきましたが、多くのメーカーが同じように考えているとは限りません。その点、日立建機は米国市場で独自に事業を展開して、大きなことを成し遂げたいと考えているようです。だから我々が期待するアグレッシブな経営姿勢の日立建機と組むことにしました」と説明する。
同社は建設機械に使う部品を早い段階から全てデータベース化してネットから簡単に発注できるシステムを構築。その便利さから各地でユーザーを獲得してビジネスを拡大してきた。
日立建機の技術力について聞くと、ギルマン副社長は「テクノロジーはどのメーカーも同じ方向に進んでいます。今、多くのお客さまが強く求めているのは信頼性の高いマシン。テクノロジーに邪魔されて仕事ができないようでは困りますが、その点で日立建機の機械はオーバーテクノロジー(技術を盛り込みすぎ)ではありません。運転の妨げにならず、高い信頼性を確保できている。そこが多くのお客さまには魅力に映ると思います」と評価した。
Customer's Voice
Company: MPR Transloading and Supply Chain Solutions
オペレータの健康のためにキャブを改良過酷な環境に耐えるタフなマシンを評価
リコ社から建設機械を購入しているのが、同じオハイオ州のベレイラという町で建設資材やエネルギー開発用資材を扱うMPRトランスローディング&サプライチェーンソリューションズ社(MPR Transloading and Supply Chain Solutions)だ。
オハイオ川沿いにある同社の施設では「フラックサンド」と呼ばれる非常に粒子の細かい砂を扱っている。純度の高い砂岩を加工して直径を0.1mmほどに細かくした天然の結晶性シリカだ。このフラックサンドは、オハイオ州東部などで活発に開発されてきたシェールガスの井戸掘りに使われる。
シェールとは「頁岩」のことで、この頁岩を掘っていく際に穴や隙間に流し込んで埋める充填材としてフラックサンドを使う。この手法を「フラッキング(水圧破砕)」と呼ぶことから名前がついた。掘削したシェール層の割れ目にフラックサンドを流し込んで加圧することで、天然ガスや石油を安価に取り出すことができるという。
MPR 社のナタリー・ブラウン(Natalie Brown)社長は「フラックサンドはとても細かい粒子で扱いが難しい資材です。その細かいシリカ粒子が人間の肺に入ると、健康被害を引き起こしかねません。そこで信頼性の高い日立建機のホイールローダをリコ社に改良してもらって、フラックサンドを集めたり移動したりするのに活用しています」と説明する。
オペレータが乗り込むキャブ内に細かい砂が入り込まないよう、内部の気圧を高くして空気が外から内部に逆流しない機構を採用。さらにソリッドタイヤを装着して足回りを改善したほか、車体下部にはプロテクション(保護壁)を施すなどフラックサンドに対応したさまざまな工夫を凝らしてある。「これまでに3台の日立建機製ホイールローダを使っており、昼夜交代で休みなく使いながら年間5000時間も稼働させています。しかし、大きな問題は起きていません。日立建機以外のメーカーを使ったこともありましたが、最終的には日立建機に戻しました。やはり操縦しやすくて狭い場所でも小回りが利くところ、そして非常にタフな環境下でも長期間の稼働にも耐える信頼性の高さが決め手となりました」と、ブラウン社長は評価する。
Natalie Brown President
部品の扱いやすさも大きな魅力
さらに多くの部品を利用できるのも利点という。ブラウン社長の夫で、MPR社のオペレーション担当で副社長のジャスティン・ブラウン(Justin Brown)氏は「フラックサンドを倉庫から倉庫へと運ぶだけでなく、ほかの石材や砂をトラックなどに積み込むなど、前面にあるバケット部分を取り替えて使うことも多いのです。その部品を替えられる点でも日立建機のホイールローダは導入の利点が大きいと判断しました」と説明する。
資源高や新興国でのエネルギー需要で開発が進むシェールガスを背景に、フラックサンドの市場規模は世界でも年々拡大。ある調査機関の予測では、2021年に63億2000万ドルあったフラックサンドの世界市場規模は、27年には106億7000万ドルに拡大するという。
リコ社のギャスバー社長は「シェールのような資源開発を含むマイニング業界も建設業界と同様に、さまざまな機械や部品を使うケースが今後5年間で大きく拡大します。特に、ボルトを締めるだけで簡単に取り替えられる部品の需要は今後も確実に伸びるでしょう」と将来を見通す。日立建機アメリカが部品事業を拡大する計画にも賛意を示しながら、ギャスバー社長は「ここオハイオにも土地を用意するので、日立建機のコミットメントと資金を使って部品倉庫をぜひ新設してほしい」との新提案も打ち上げた。
日立建機のマシンに対して高い信頼性と期待感を持っているディーラー各社は建設需要やマイニング事業の一段と拡大する米州市場で「日立建機と組んで一緒に成長していきたい」との熱意にあふれていた。