Solution Linkage 通信簿 - 【ICT施工ソリューション編】金杉建設株式会社[埼玉県春日部市]
【ICT施工ソリューション編】
金杉建設株式会社[埼玉県春日部市]
日立建機のICT・IoTソリューション「Solution Linkage」を導入したことで現場はどう変わったか、経営にどんな影響を与えたか―。お客さまの評価をレポートする。
取材・文/太田利之 撮影/関根則夫
今回のポイント
独自技術を持った企業との連携で、イノベーションを推進
自社の成果をオープンにして、業界の底上げに貢献
内製化で得たノウハウを蓄積し、あらゆる場面で活用
情報感度を研ぎ澄まし、広範な技術分野と連携
I C Tイノベーションで建設の未来を築く
2022年11月21日、建設DX実験フィールド(茨城県つくば市)では遠隔施工等の技術実演会が行われていた。その中で、来場者が興味深げに見ていた実演がある。金杉建設を中心とする4社の協業によって生み出された「自律走行型草刈り機」だ。
既存の大型草刈り機に、全方位レーザスキャナ、GNSS(衛星測位システム)アンテナ、赤外線カメラ、屋外用Wi-Fiなどを搭載し、河川堤防の草刈り作業の自動化を実現。建設現場で活用しているデジタル技術等を応用し、試行錯誤をして開発されたものだ。この技術は、2022年の「官民研究開発投資拡大プログラムPRISM(Public/Private R&D Investment Strategic Expansion PrograM)」に選定されている。
代表取締役社長
吉川祐介氏
ICT施工が注目されるのは、やはり新しい技術を採用すればメリットがあるからなんです。新しい技術に恐れず挑戦して、お互い成長していきましょう。
未来に目を向けた企業と組み
建設DXに手ごたえ
金杉建設は、埼玉県東部の春日部市に本社を構え、最先端のデジタル建設技術で、現場の生産性や安全性、労働環境の向上などをめざした施策を推進。業界から熱い視線を集めている。
前述したような高度なデジタル技術を有している金杉建設だが、実は、ICT の取り組みを始めてまだ6 年。2017年度の第1回「i-Construction大賞」で優秀賞を受賞し、これを契機に、同社はICT 施工を推進。さらには、先端技術の活用で、現場の施工プロセスを革新する建設DXへと突き進む。
代表取締役社長の吉川祐介氏は、ICTの取り組みは先んじて進めるべきだと力説する。
「ICTやDXというと、『企業規模や初期投資面、人財等の問題から、当社はまだ時期尚早』という声をよく耳にします。しかし、ICT投資は企業規模に関わらず、適切な手法をとれば必ずメリットが生まれるものなのです」
気になる新技術をキャッチするために、自らも展示会には必ず出向くという吉川氏。外部に向けた見学会や研修などを積極的に行い、自社で確立したノウハウや事例も公開。ICT施工の啓蒙に力を注いでいる。
「未来に眼を向けた企業同士がスクラムを組み、共に技術レベルを上げていきたいと願っています」(吉川氏)
冒頭で紹介した「自律走行型草刈り機」も、独自の先進技術を持つ会社とのコラボレーションで生まれたものだ。開発を担当した工事部次長の藤沼修氏は、次のように語る。「自動化という手段を用いて、生産性を上げるというコンセプトで開発に取り組みました。堤防の維持管理の中でも、除草作業は年間業務。非常に実用性のある技術だと考えています」。新たな挑戦に対して前向きな企業と手を組み、革新的な技術活用の挑戦を続けている。
ICT施工の習得は現場での実践あるのみ
金杉建設では、マシンコントロール搭載の日立建機製ZX200X・ZX135USXをはじめ、他社メーカーのICT建設機械を多数揃えている。
さらに起工測量や3次元設計データの生成などの上流部分から、一貫してICT施工の内製化を進めているのも同社の特徴だ。吉川社長はその理由をこう説明する。
「専門知識を必要とする3次元設計データ作成などの工程をアウトソーシングしてブラックボックスができてしまうと、ノウハウの蓄積が阻害されるからです。発注者からいただいた図面に問題点があっても、会社で蓄積している技術をつぎ込んで、正しい施工にあたるのが私たちの仕事だと思っていますから」
こうして同社はICT施工の技術を身につけながら、現場ごとに応用し実績を積み上げている。同社のICT戦略を統括する工事管理本部部長の小俣陽平氏は「ICT施工が始まってからは、ナレッジが無限にあると感じています。お見せできるものは極力オープンに公開しています」と話す。
ICT施工習得のポイントについてうかがうと、「実践で対応するしか人は伸びない」と率直に話し、こう続ける。
「若手に3次元設計データを組ませ、建設機械に入れて実際に動かしてもらうんです。自分の現場で自分の作った設計が合っているのか。設計通りに動くと感動していますよ」(小俣氏)
しかし、あくまでICT施工は現場の生産性向上の手段の一つであると、吉川社長は話す。
「企業戦略として、今後どういった成長をめざすのかを考えたうえで、ICTに投資するのか、その中でも管理メインなら測量機器、施工に力を注ぐなら建設機械、もしくは人財育成に注力するのかなど、自社の強みと、その発展成長のストーリーを描いてほしいと思います」
小俣氏はインスタグラムで、現場のデジタル化に関する情報を発信。情報交換の場となっている。
(左) 工事管理本部 部長/i-Construction 推進室 室長 小俣陽平氏
(右) 工事部 次長 藤沼 修氏
ICT建設機械導入時は、当社のニーズに合わせた測量機器を搭載するなど、努力を払ってくれました。設計開発担当の方との情報交換の場は、非常に嬉しい機会となりました。ユーザー本位の柔軟な対応力は高評価。今後は新技術や先進的な取り組みを期待しています。