新社長インタビュー
ソリューションプロバイダーとして未来への扉を開けて、世界を切り拓いていきたい
2023~2025 年度の中期経営計画「BUILDING THE FUTURE 2025 未来を創れ」がスタートした。顧客価値を最大化する「ソリューションプロバイダー」を旗印に、事業をどう成長させ、どんな未来を描いていくのか。先崎正文新社長が中期経営計画のねらいを語った。早くも現場ではお客さまニーズを捉えた革新的ソリューションの提供が加速している。後半ではマイニングチームの挑戦を追った。
先崎正文(せんざきまさふみ)
執行役社長兼COO
1965年千葉県生まれ。1991年東京工業大学大学院機械物理工学専攻修了。同年、日立建機入社。
2012 年日立建機ユーラシア製造LLC 取締役社長、2018年執行役営業本部長、2021年執行役常務経営戦略本部長兼事業管理本部長、2022年執行役専務COO兼経営戦略本部長を経て、2023年4月から現職。
ソリューションプロバイダーへ進化を遂げる
昨年は米州での全事業の再構築が進み、また会社の資本構成が変わり新たなパートナーとの連携も進みました。
このベストな環境で社長に就任し、2023年度から新たな中期経営計画をスタートできることに、大きな使命感を抱いています。
革新的ソリューションの土台
2025年に向けた中期経営計画は「顧客に寄り添う革新的ソリューションの提供」「バリューチェーン事業の拡充」「米州事業の拡大」「人・企業力の強化」という4つの柱を軸に作成しました。
どう進めていくかを私なりの言葉で表すと、まさしく「継承」と「進化」に尽きると思います。
昨年扉を開いた米州事業を、引き継ぎ発展させること。そして、日立建機のビジョンは「豊かな大地、豊かな街を未来へ」と定めていますが、バリューチェーンを通してサステナブルな社会をつくっていくことは今まで以上に注力したいと考えています。
その中で、日立建機グループを進化させていかなければならない。その旗印になるのが「革新的ソリューションの提供」になるのです。これを支えていくのが人であり組織。「ソリューションプロバイダー」として人と企業が育ち、力を発揮する。4つの柱がそれぞれにつながり、成長していく姿を描いています。
中でも「ソリューションプロバイダー」を大きな方針としていますが、その発展と成長を支える土台には、日立建機の2つの強みがあります。
1つ目はもちろん、信頼されるハードウエアです。70年以上培ってきた技術の粋はどこにも負けてはいません。建設機械メーカーとして「造る」から「創る」までを提供していくことは、未来に継承していく日立建機の伝統として揺らぐことはありません。
2つ目が、この数年全社で進めてきた、お客さまのニーズを最優先とするマインドの「CIF(Customer InterestFirst:顧客課題解決志向)」。建設機械を使う過程では、安全な作業環境、作業の効率化、ライフサイクルコストの低減など、さまざまなお客さまのニーズが発生します。それに対して、どのような解決方法を提供するか。顧客視点の浸透をますます図っていく考えです。
今回の中期経営計画策定に先立ち、お客さまのニーズを軸とする組織改革を行ったことは重要な転換点になりました。2022年度に、土木・建設現場向けの「コンストラクション」、鉱山用超大型建設機械の「マイニング」、都市土木向けの「コンパクト」、バリューチェーン事業の拡大につながる「部品・サービス」、「レンタル・中古車」の5つのビジネスユニットを設置しました。
一般には、私たちのようなメーカーがソリューション事業に注力していく場合、ハード系とソフト系をそれぞれ独立した組織にすることが少なくないと思います。当社でも過去には、機械の開発、製造、営業という機能別の組織構成で行ってきました。しかし、コンストラクションのお客さまとマイニングのお客さまでは求めるものが異なるのが当然で、ソリューションの考え方やあり方も変わってきます。そこで、それぞれのお客さまのニーズにフォーカスする形で、開発・製造、販売した後のアフターサービスまでを一気通貫で対応できるビジネスユニット体制を構築したのです。
さらに、新規事業を創出することを目的とした「新事業創生ユニット」が業種別のビジネスユニットを貫く存在となり、縦方向、横方向と柔軟につながるマトリックス構造をとっています。
複雑化する土木・建設市場
道路や河川といったインフラ、宅地造成、林業など、さまざまな工事の場面で建設機械が必要とされます。シーンが多様化すれば、当然、お客さまのニーズは変わってきます。さらに国別でみると、日本では労働力不足に対して省力化を促すICT建設機械、欧州ではゼロエミッション対応機械、新興国ではライフサイクルコスト低減への対応など、建設機械の需要は伸びつつも、ニーズの多様化に即した製品ラインアップが望まれます。
一方で、他社製の機械も含めて、工事現場全体を管理するシーンも求められます。日立建機は現場の見える化、進捗管理、安全管理など、お客さまの声から生まれたICT施工ソリューションの「Solution Linkage」を開発してさまざまなサービスを提供し、現場で多く採用されるようになりました。
ビッグデータを活用して機械を見守る「ConSite」などのサービスソリューションもフル活用し、コンストラクション・コンパクト事業において、お客さまに寄り添ったソリューションを提供できる環境が整っています。
鉱山全体にかかわるソリューション
同じようにマイニング事業も、他社の機械を含めた鉱山全体のオペレーションマネジメントを実現することをめざしています。そのために、鉱山運営に必要な製品やサービス、デジタルソリューションを活用し、採掘から選鉱までのサイト運営全体にかかわるバリューチェーン事業を拡大する考えです。
例えば、これまで連結子会社であるカナダのWenco社が提供する鉱山運行管理システムや、ダンプトラックの自律走行システム(AHS)などを活用して、数年前からデジタルプラットフォームの構築を進めてきました。当社では、100人におよぶAHS専任開発チームを結成しており、建設機械メーカーとしては珍しくアジャイル開発に長けたメンバーが揃っています。
鉱山は市街地から遠く離れた厳しい環境にあり、近年は人材確保が難しくなっています。この課題に対して、超大型油圧ショベルに遠隔・自動掘削を取り入れた、より高度な自動化技術・自律運転の実現へ開発を急いでいます。また、エンジンを積んでいないフル電動のダンプトラックの開発も進めており、今年度中にお客さまの鉱山現場での実証試験も計画しています。
鉱山現場で最もCO2排出量の多いダンプトラックを電動化することで、鉱山現場のゼロエミッションが実現できるものだと確信しています。
今年度は、これまで培ってきたマイニング事業のソリューションを大きく進めていくスタートの年となります。
悲願の米州事業が本格スタート
中期経営計画の4つの柱の中でも、「米州事業の拡大」には特別な思いがあります。米州事業は20年来の当社の悲願ともいえる事業で、2022年3月に独自展開を開始し、ようやくその第一歩を踏み出しました。
2025年度までの米州の独自事業の売上収益目標を2022年度実績の2倍に迫る3000億円以上としていますが、この数字が非現実的だとは思っていません。米州のコンストラクション・コンパクト事業では独自の販売網を構築し、北米の8割ほどのエリアをカバーするに至っています。また、マイニング事業では、中南米のお客さまから「待っていた」と言われるなど、今後に向けて大きな手応えを感じています。
中期経営計画のスローガンは、「BUILDING THE FUTURE 2025未来を創れ」としました。米州事業の扉が開き、資本構成が変わった昨年の転換期を経て、今は「第2の創業」ともいえるタイミングです。その先に思い描く未来像は、従業員一人ひとりが考えて実行していくものです。ただ、そこに至る道筋はしっかりと共有しておきたいので、国内外グループ会社の全社員を対象に「トップキャラバン」を30回ほど実施し、中期経営計画の理解促進・浸透に向けた、積極的なコミュニケーションを図っています。
これまでの日立建機はハードウエアの考えが強い会社でした。しかし足元をみると、例えばマイニング事業では「モノづくり」と、デジタルを活用した「コトづくり」の両輪でお客さまに寄り添い、そのニーズに懸命に応える姿が見られます。今までと少し方向は変わりますが、変化を恐れず、自分たちで考えた未来を、みずからの手で創っていってほしいと願っています。
文/牛島美笛 写真/若原瑞昌