拝啓・現場小町 vol. (23) - 椛木円佳さん
各方面の現場でイキイキと輝く活躍する女性にその醍醐味や将来の目標などを伺いました。
文/編集部 写真/箕浦伸雄(ケルビン堂)
牛、地域、仲間にかける情熱で酪農業界の底上げをめざす
Profile
酪農家
株式会社マドリン 椛木円佳(かばき まどか)さん
北海道広尾町出身。帯広畜産大学別科修了後、カナダでの酪農実習などを経て2007年に株式会社マドリンを設立。酪農業の傍ら、ラジオ番組のパーソナリティーや酪農の普及活動など、多方面で活躍。
牛と触れ合う搾乳の時間が一番の癒やし
北海道・広尾町で唯一の女性牧場経営者、椛木円佳さんの1日は、日の出とともに始まる。牛の世話は早朝と夕方の2回。一頭一頭の牛に触れ、声がけしながら餌やり、搾乳、牛舎の掃除、子牛の哺乳などを、1人で手早くこなしていく。朝夕とも約4時間で終了するが、牛舎周りの整備をする日や分娩が近い牛がいる日はこの限りではない。
酪農の仕事は重労働といわれるが、近年は搾乳の機械化が進み、労力のかかる業務を委託できる支援機関も充実。マドリン牧場でも餌作りや畑仕事などを外部に委託することで、従業員がいなくても牛の管理や世話、搾乳に集中できる体制を整えている。
「酪農の仕事は牛が健康に生きてくれてこそ成り立つもの。今ある環境の中で私ができる精一杯のことをしてあげて、牛たちが存分に生乳を出せるような飼育を心がけています」
今でこそ牛への愛に溢れる椛木さんだが、酪農家の家に生まれ育った当人にとって牛の世話は、“家の手伝いでなんとなく”やるものだった。酪農の仕事に誇りを持つ両親への尊敬と憧れから同じ道へ進んだものの、当時は「酪農の仕事が好き!」と自信を持っては言えなかったという。
椛木さんの心に“酪農愛”の火をつけたのは、カナダの酪農実習で師事した女性牧場経営者。牛に愛情を持って接することで得られるやりがいや、牛のことを考えながら仕事をする楽しさは、すべて彼女から学んだもの。おしゃれを楽しみつつ、同業の男性経営者と肩を並べてバリバリ働く姿も、「女性でも牧場経営者になれる」という未来を描く指標になったという。
帰国後、実家の牧場での就農を経て、自身の牧場を設立したのは24歳のとき。しかし、周囲の同業者からは、「女に牧場経営は難しい」と言われたという。落ち込んだ時期もあったが、心折れずに牧場を軌道に乗せてこられたのは、持ち前の負けん気の強さと、地元の友達や近所の農家の奥さんといった仲間たちの支えがあったからだ。
「遅くまで牛舎にいると、『まだ仕事してるの?』と声をかけてくれて、話を聞いたりごはんに誘ってくれたり。ひとりで悩まずに済んだから、今まで頑張ってこられたんだと思います」
現在の目標は、地元の女性酪農家を増やすこと。酪農の魅力を伝えるため、自身の牧場で酪農体験を催し、地域おこしのイベントにも積極的に参加。道内の同業者をつなぐ「SAKURA会」や「酪農女性サミット」といったコミュニティの運営、メディアでの情報発信も精力的に行う。
「酪農が女性の仕事として定着していけば、人手不足で悩む業界の底上げになると思うんです。大好きな酪農業や地域を盛り上げるため、できることを精一杯頑張っていきたいです!」
看板をはじめ、作業着などにはオリジナルのロゴを採用。仕事のモチベーション向上に役立てている。
約50頭の牛から「ミルカー」(搾乳機)で生乳を集める。
餌となる牧草の運搬には日立建機のホイールローダZW100を活用。
酪農と食育に関するイベントや、広尾町の魅力を広める「ピロロフェス」などでは盛り上げ役の司会を担当。
約40ヘクタールの敷地で110頭前後の乳牛を飼育。
Off-time
椛木さんのオフタイム
フラワーアレンジメントの作品作りでリフレッシュ
丁寧な所作を磨こうと思い、友人の母が開く教室に入門。10年近く続けていますが、花を使って自分らしさを表現するのがすごく楽しいんです。主婦の方や酪農とは違う職業の方たちと他愛ないおしゃべりができることも、とてもいい息抜きになっています。
酪農家
田辺晃子さん
何事にも一生懸命な努力の人。1人で牛を飼育しながら、農場HACCP※ の認証を取ったり、酪農や地域を盛り上げる活動に注力したり。人のために全力で行動する姿勢も同業者として尊敬しています。
※畜産農場における家畜・畜産物の安全性の確保と、生産性の向上を図る衛生管理システム。