見たくなる!日本のすごいインフラ Vol. 04
有明海の幻影? 海に消えていく一本道
長部田 海床路(ながべた かいしょうろ)
熊本県宇土市住吉町
宮沢 洋(みやざわ・ひろし)
画文家、BUNGA NET代表兼編集長。1967年生まれ。1990年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、日経BP社入社。2016年~19年、日経アーキテクチュア編集長。2020年独立、建築ネットマガジン「BUNGA NET」を運営。著書に『隈研吾建築図鑑』『日本の水族館五十三次』など
熊本県宇土市が1979年、有明海で海苔養殖や採貝を営む漁業者のために建設した。施工者は天禄実業。
JR三角線・住吉駅から徒歩約25分の住吉海岸公園近くにあり、住吉漁業協同組合が管理している。
取材に訪れた日は、6〜7人の外国人観光客が、休憩所の日陰で気長に潮が引くのを待っていた。潮が満ちた状態を見れば引いた状態を見たくなる。その逆もしかり。秒を競う時代に、得難い体験だ。
「海床路」とは、潮が引いたときにだけ海面から現れる海中道路のことを言う。約1kmのコンクリート製の一本道。片側(南側)に24本の電柱が並ぶ。
潮が引いたときには一般の人も歩くことはできるが、主目的は海苔養殖などを営む漁業者のための専用道だ。干潮時に海側の先端に船をつけて、収穫したものや資材を車で運ぶ。遠浅で陸の近くに船がつけられないため、こうした施設が必要になる。
潮が満ちてくると、陸側の一部を残して道は海面に沈む。電柱も足もとは海の中。この道が海外にまで知られるようになったのは、宮崎駿監督の映画『千と千尋の神隠し』(2001年公開)の影響が大きい。主人公の(せん)がカオナシと乗車する“海原電鉄”のシーンにそっくりだと話題になった。
建設時(1979年)に工事監督を務めたMさんは、「コンクリートの打設が干潮時にしかできず、時間との闘いだった」と振り返る。そして、「当時は観光の目玉になるとは思ってもみなかった」と笑う。