プロジェクトストーリー
<テレスコクラム仕様機>
日立建機のテレスコクラム仕様機は、もともとはお客さまの依頼を受けた応用開発製品として開発され、今や世界的ブランドとして認知されるまでになった。このテレスコクラム仕様機を例に、開発プロジェクトの実際を応用製品開発部の主任技師たちの証言を交えて紹介する。
稲元 昭
コンストラクション
ビジネスユニット
開発設計統括部
応用製品開発部
主任技師
多田 茂也
コンストラクション
ビジネスユニット
開発設計統括部
応用製品開発部
主任技師
星野 淳志
コンストラクション
ビジネスユニット
開発設計統括部
応用製品開発部
主任技師
伊藤 稔
コンストラクション
ビジネスユニット
開発設計統括部
応用製品開発部
主任技師
お客さまとの深いかかわりで誕生! 応用製品開発に挑み続けるエンジニアたちの歩み
1982年、送電線鉄塔の基礎工事における深掘りのニーズに対応するため油圧式の1号機を開発・納入したところから、日立建機のテレスコクラム仕様機をめぐる応用製品開発の歴史は始まる。その6年後には北海道のあるお客さまから依頼を受け、油圧式の従来機を大幅モデルチェンジしたロープ式テレスコクラムシェルを開発。これが大きな実績を上げ、後に「カメレオンクラム」として世界中に知れわたることとなった。
稲元昭はこう説明する。
「テレスコクラム仕様機はシリンダと連動してアームが下方に伸び、地下の土を拾い上げてダンプに積み込むという機械です。大規模な地下の根切り工事では、毎日ダンプトラックに土を積んで運ぶという繰り返しで、何百立米という土砂を搬出しなければなりません。従来の油圧式では工期がかかってしまい、スピードアップをして工期を短縮したいというニーズがありました。そういった困りごとを拾い上げて開発を始め、できあがったものがテレスコクラム仕様機です。筒状のアーム内部にロープを掛け回し、1本のシリンダに連動してアームが伸縮。伸縮動作がスピーディになり、サイクルタイムも短縮。従来の油圧式をしのぐ機械に仕上がりました」
個々のお客さまの要望に応えつつ、すでに市販されている汎用機のベースマシンに手を加えることでニーズに応える機能を実現していくのが、日立建機の応用製品開発の姿勢だ。
「ただ、お客さまの困りごとは漠然としたものが多い」と多田茂也は証言する。
「お客さまにヒアリングした営業担当から話が持ち込まれると、応用製品開発部のメンバーが直接現場を見たり、お客さまからニーズを聞いて、まだ可視化されていない課題を特定します。営業担当と連携したり、時には組織を横断したメンバーで技術や課題解決策の検討などを行うワーキンググループを開催し、他部門とも情報交換をしながらこんな機能があった方がいいのではないかとアイデアをまとめて提案しています」(多田)
日立建機の応用製品開発部と営業とは距離が近く、日々の会話から開発のきっかけが生まれるケースも少なくない。その上で「お客さまの現場をしっかりと把握し、どのような機能を付け加えればいいのかチーム内で話し合って、仕様や構造を考え出す―。というのが開発の基本的な流れになります」と稲元は解説する。
汎用的な油圧ショベルに改造を加えるための仕様・構造を検討したあとは、それがきちんと成り立つのかどうか部内で検討を行う。例えば機械のフロント部分に機能を追加する場合、その負荷に耐える強度や油圧力をしっかり検討し、適切なベースマシンを選定していくわけだ。
この設計段階での苦労を多田が明かす。
「機能を高めるためにスペックを追求すると、どうしても車体が重くなってしまいます。するとベースマシンもワンクラス上のものにしなければならず、当然ながらコストも高くなる。そうした理由から、設計においてはいかに車体をコンパクトかつ軽量化し、スペックとコストのバランスを取るかが最大のテーマになります」
現在ロープ式テレスコクラムの33tクラスは、最大30mまで掘削できる。大型化すれば単純により深く掘削できるものの、現場に搬入できる重量には限界もある。しかも、大型化は価格も高くなり、燃費も悪くなる。さらにお客さまから求められるのはアーム伸縮のスピードとクラムシェルバケットの容量、いわゆる作業量だ。それを両立させるためのベストな設計に挑んでいると多田は話す。
30mテレスコクラム仕様機の開発秘話について、こう続ける。
「以前、最大掘削が25mまでの機械しかなかったときに、海外の地下鉄工事の現場で30mのテレスコがほしいとの要望をいただきました。最初は25mのテレスコの先に5mの延長部材を取り付けてみたのですが、それについてはあまり良い評価をいただけませんでした。そこで何度も現場に足を運び、ベストな形になるよう一から30mのテレスコを開発・設計。動作スピードが上がり、バケットの容量も大きくできたことから、現場での効率が高まったと良い評価をいただけました。今では、日本をはじめ他国でも展開されています」(多田)
開発段階では、いわば“一品モノ”。「工場内での組み立てにも必ず立ち会います」と星野淳志は言う。さらに「新しい機能を盛り込んで納入したときには、お客さまには開発した機械を現場で動かしてもらい、その評価を大事にしている」と続ける。自身で設計した製品が組み上がり、現実に動作したときは、やはり手応えと安心感を覚えるのだという。
世の中に一つしかない製品を生み出し、お客さまに実際に使っていただき改良を重ね、進化をとげたテレスコクラム仕様機。こうして開発された製品はお客さまからの好評を得て、現在では国内外合わせて1000台以上が販売されている。最近では、バルセロナのサグラダ・ファミリア近くの地下鉄路線の拡張工事で使用されたり、イギリスの高速鉄道「HS2」の建設工事で使用されたりと海外でも活躍中だ。
入社以来、一貫して応用製品開発に従事し、テレスコクラムも担当する伊藤稔は、既存テレスコクラムの機能改善を図るモデルチェンジを中心に取り組んでいる。いわば完成を見ている現行機に手を加えるわけで、「一つ変えると別のどこかに課題が出たりします」と、その難しさを説明する。さらには機能追加した分コストも上がるため、お客さまに理解してもらえる設計を心がけている。「多種多様な製品を担当するのでいろいろな経験ができます。おかげで日々勉強し、成長していける実感がありますね」と、応用製品開発に携わる醍醐味を語った。