拝啓・現場小町 vol. (24) - 石川美幸さん
各方面の現場でイキイキと輝く活躍する女性にその醍醐味や将来の目標などを伺いました。
文/編集部 写真/松浦幸之介
江戸時代から続く技術で新世代の「可愛い」を探究
Profile
切子職人
GLASS-LAB株式会社
石川美幸さん
東京都出身。幼い頃より地元・浅草の祭や神輿の飾りなどを見て、職人に憧れる。美容師や会社員などを経て、2019年にGLASS-LAB(グラス-ラボ)へ入社。一人前の切子職人をめざす。
希少な伝統の技術を後世につなぎたい
東京都江東区にあるGLASS-LABは、1950年に創業した「椎名硝子加工所」の流れを汲む、ガラス製品の製造・販売店。同社で働く石川美幸さんは、江戸時代末期から続く江戸切子の製法、「平切子(ひらきりこ)」の技術を学びながら職人としての腕を磨き続けている。
平切子とはガラスを平らに削って面を作る技術。主にグラス側面の装飾や、皿の底などを安定させるために用いられてきた。しかしガラス加工の機械化や量産化の影響で、古くからの技術を継承する職人の数は減少。今では全国で10人ほどしかいないという。
石川さんが切子作りに興味を持ったのは、GLASS-LABの事務作業を手伝い始めたことがきっかけ。業務を通じて切子に魅了されていく中、友人で同社代表の椎名隆行さんから「平切子職人の父の技術を継ぐ人がいない」と聞き、弟子入りを志願した。
「昔から憧れていた職人の仕事に就くチャンスだと思ったんです。キラキラで可愛い切子を自分で作れたら最高だろうなというワクワク感も、大きな後押しとなりました」
平切子の作業では研磨機の回転する刃にガラスを当て、平らに削る工程を繰り返す。研磨に使われる刃は5種類。最初は硬く目の粗いダイヤ。徐々に素材や目がやわらかい刃に換えながら形を整え、最後は木製の刃で表面を磨くという手順で行われる。
難しいのは研磨機に当てるときのさじ加減。角度や力の入れ方を誤ると平行な面や均等な幅に仕上がらないからだ。また、これまで女性職人がいなかったため、作業方法が男性軸であることに苦労する場面もあった。
「手が小さいし力もないので、『こうしたほうがいい』と教わっても、やりにくい場面があるんです。幸い型にとらわれずに働ける環境なので、自分に合う方法を日々模索しています」
石川さんが主に手掛けているのはぐい呑みの加工。側面を均等な幅で平らに削り、花びらの形のような面を作っていく。ベースとなるグラスの色や厚みによって光の入り方が異なるため、グラスごとに面の幅や深さを細かく調整するのがこだわりだ。
失敗作を作品作りに生かせるのも平切子ならでは。「どう削り直せばいいか?」と切り替えたことで、新しい商品が生まれたこともあるという。
「学びや発見が多いので、失敗は全然怖くないです。ひとつの完成形にとらわれることがないのも、気負わず楽しく切子作りに没頭できる理由ですね」
現在の目標はオリジナル作品の開発と、技術を後進に継承できるような一人前の職人になること。
「といっても、自分的にはまだまだなので1歩ずつ。まずはガラスとしっかり向き合いながら、わっと驚かれるような作品を作っていきたいです!」
花びら型の側面は平切子で作られたもの。水を入れると底の模様が反射し、万華鏡のような世界が生まれる。
側面に平切子の加工を施したグラス。面の数が多く細かいほど複雑な表情が生まれるという。
ガラスと向き合うときは、特に耳と手の感覚を大事にしている。
GLASS-LABオリジナルの『富士山切子』。グラスを斜めに傾けた状態でも置けるように平切子で加工が施されている。
Off-time
石川さんのオフタイム
1日中お家にこもって猫とくっついています
超インドア派で、休日はしっかり休んでおきたいタイプ。愛猫のウマミ(上)とランとくっついてゲームをしたり、大好きなマンガ『ジョジョの奇妙な冒険』や映画を見たりして過ごしています。仕事で腰を痛めないように、映画を見ながら筋トレやストレッチに励むことも多いです。
GLASS-LAB
代表取締役
椎名隆行さん
実家の工房を盛り上げるための製品企画や販促を行う僕のサポートに始まり、平切子の技術習得にも力を注いでくれる心強い存在。細々とした部分への目配りと気配りにもいつも助けられています。