働くカラダの処方箋
theme:目の健康寿命の延ばし方
井上眼科病院院長
井上賢治先生
千葉大学医学部、東京大学医学部大学院卒。日本眼科学会眼科専門医。専門は緑内障ほか。2002年より井上眼科病院へ勤務し、2008年に同院母体である医療法人社団済安堂の理事長に就任。2012年からは同院院長を兼務。
日々忙しく働かれている皆さんへ、人生100年時代を豊かに過ごすために不可欠な健康の知識を伝える新連載。
第1回は現場作業や建設機械の操作、パソコンでの図面や見積書の作成などで、日々酷使しがちな目の健康を守る方法をお届けします。
構成・文/編集部 イラスト/丹下京子
年に1度の眼科健診で、不調の早期発見を
目の健康寿命を延ばすため、まず意識していただきたいのが、「アイフレイル」の予防です。アイフレイルとは日本眼科啓発会議が健康維持のために提唱する概念で、加齢と複数の要因がもとで起こる目の機能が低下した状態を意味します。右ページのチェックシートにあるような見えにくさや、小さな違和感をそのままにしておくと機能の衰えが進み、回復が難しい状態になる恐れがあります。
次に大切なのは、視機能の衰えや病気の兆候にいち早く気づき、適切な治療を受けること。ちゃんと見えると思っていても、近視や老眼はじわじわと進行。見えづらいまま無理を続けると目が疲れやすくなり、頭痛や肩こり、視力の低下などを招きます。
加えて40歳以上の方は、目の成人病といわれる「緑内障」「白内障」「加齢黄斑変性」にもご注意を。ただ、これらの病気は初期段階だと自覚症状がほとんどないため、自力で気づくことはまず難しいでしょう。
目の衰えや病気が進行する前に異常を把握するには、年に1度、眼科健診を受けておくのが得策。かかりつけの眼科医をつくって定期的に通う習慣をつければ、より小さな変化も見落としにくくなるはずです。
また、目の疲労を軽減するための生活習慣を心がけることも大切。特にスマホやパソコンを長時間見る機会が多い方は下記のアイケア術を参照のうえ、適度な休息や目の負担を減らすための工夫も心がけてみてください。
アイフレイルチェックシート
普段の目の様子や行動を振り返りながら目の健康状態をチェック。あてはまる項目が0~1個なら、いまのところ問題ありませんが、2個以上の項目に該当する方はアイフレイルの可能性があります。
アイフレイルとは?
加齢に伴う目の衰えにさまざまな外的ストレスが加わることで、目の機能が低下した状態、またはそのリスクが高い状態。ものが見えにくくなることで自立機能の低下や日常生活の制限をもたらすため、厚生労働省の健康寿命促進に向けた施策でも予防や早期発見を推奨しています。ほかの病気と同様、症状が軽いうちに適切な予防や治療を行うことで、進行の遅延や症状の緩和が期待できます。
4O歳を過ぎたら注意したい目の成人病
緑内障 - 少しずつ視野が狭まり失明につながる病気
何らかの原因で視神経が障害されることで起こります。損なわれた視神経は元に戻らないため、早期治療で進行を遅らせることが大切です。初期は自覚症状が乏しいため、早期発見には定期的な眼科での検査が有効です。
白内障 - 水晶体が白くにごり視力の低下を引き起こす
目のレンズの役割をする水晶体のたんぱく質が変性することで起こる病気。ものがかすんだり二重に見えたりすることもあります。初期であれば点眼薬で進行を抑えることができますが、完治させるには手術が必要です。
加齢黄斑変性 - 視野の歪みをはじめ見え方に異常が起こる
加齢などで視細胞が集まる「黄斑」に障害が生じ、視力の低下や視野の中心が暗くなるなどの異常が起こる病気。治療時は原因物質を抑える薬剤を直接目に注射します。予防には禁煙と食生活の改善がおすすめです。
目の健康を守るアイケア術
目の乾燥を防ぐ
気をつけたいのは、まばたき不足による涙の減少、空調による室内の乾燥、コンタクトレンズの長時間装用といったドライアイにつながる要因。意識してまばたきをする、加湿器を使う、適度に目薬をさすなどして目のうるおいを守りましょう。
視力に合った眼鏡を使う
コンタクトレンズや老眼鏡も同様、度数が合わないものは眼精疲労を招き、近視や老眼の悪化を早めます。また、視力の変化は両眼同時に進むわけではありません。ときどき片目でものを見て、左右の見え方に違いがないかを確認しておきましょう。
適度に目を休める
人間の目は遠くを見るようにできているためスマホやパソコン、書類といった近くのものを見続けると負担がかかります。お手軽なのは遠くを見たり、目を閉じたりする休息法。温めて血流を促す、冷やしてスッキリさせるといったケアも効果的です。
食生活の改善
積極的に摂りたいのは、ビタミンA、B、E、アントシアニン、ルテインなど目に良い栄養素を含む食材。具体的には緑黄色野菜やレバー、うなぎ、チーズ、アーモンド、ベリー類など。食事で摂るのが難しい場合はサプリメントの活用もおすすめです。
目の紫外線対策
紫外線は目の細胞の老化を促すほか、大量に浴びると加齢黄斑変性や白内障の原因になるといわれています。長時間、日中の屋外で過ごす際は、UVカットのメガネやサングラス、コンタクトレンズを活用し、目へのダメージを防ぐことを忘れずに。
タバコやストレスを避ける
ともに血流の悪化を招き、目に悪影響を与えるといわれています。タバコは白内障や加齢黄斑変性の発症、ストレスは緑内障の悪化などにも影響するという説も。できるだけ禁煙を意識し、ストレスを溜めすぎない生活をおくるようにしましょう。
現場作業時に注意したいこと
一番怖いのは鉄片やコンクリ片、ガラス片といった、細かいかけらが目に刺さること。特に注意したいのが金属片。目に入った鉄片や鉄粉をそのまま放置してしまうと、鉄の周りにサビが発生し角膜に沈着。炎症や視力の低下のみならず、最悪の場合は失明に至ることもあります。ゴーグルで目を守りつつ、少しでも異常を感じたらすぐ目を洗い、早めに眼科を受診してください。
機械の操作や図面の確認などで近くのものを見続ける場合は20~30分おきに遠くを見て、目のピント調整を行う「毛様体筋」の緊張をやわらげると目の負担を減らせます。また、集中のしすぎでまばたきの回数が減ると、ドライアイの原因に。適度に目を閉じる、目薬をさすなどして目の乾燥を防ぎましょう。