見たくなる!日本のすごいインフラ Vol. 05
ふ頭のシンボルが伝える先進的工法
横浜港 ハンマーヘッドクレーン
(神奈川県横浜市中区)
宮沢 洋(みやざわ・ひろし)
画文家、BUNGA NET代表兼編集長。1967年生まれ。1990年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、日経BP社入社。2016年~19年、日経アーキテクチュア編集長。2020年独立、建築ネットマガジン「BUNGA NET」を運営。著書に『隈研吾建築図鑑』『日本の水族館五十三次』など
みなとみらい線・馬車道駅から徒歩10分。2019年にオープンした商業施設「横浜ハンマーヘッド」の海側に、ハンマーヘッドクレーンはある。2020年には、商業施設とブリッジでつながる公園も完成。
「50t定置式電気起重機」。今や観光スポットとなった横浜港ハンマーヘッドクレーンの正式名だ。1914年(大正3年)、横浜港新港ふ頭に建設された。港湾荷役専用のクレーンでは日本初。イギリスのコーワンス・シェルドン社製の大型クレーンで、楊重能力は最大50t、動力は当初から電気だ。
このクレーンの設置により、荷揚げ・荷下ろしの作業効率は飛躍的に向上。主に輸出用の絹製品や生糸などを運ぶため、クレーンの足下と初代横浜駅(現・JR桜木町駅)を結ぶ鉄道も敷設された。
1923年には関東大震災が発生したが、他の施設が崩壊するなかで大きな損傷なく残った。基礎がニューマチックケーソン工法でつくられた強固なものであったことが一因と考えられている。
同工法はフランスで発明された地下掘削手法。ケーソン(函)の下部にコップをふせた形の作業室を設け、圧縮空気を送り込んで作業室内の地下水を排除、土砂を掘削しながらケーソンを沈下させていく。エッフェル塔建設(1889年完成)でも使われた。
日本では関東大震災の復興工事で広まったとされるが、その9年前だ。海を指し示すハンマーは、技術者たちの挑戦心を示しているようにも見える。