拝啓・現場小町 vol. (25) - 柴田千代さん
各方面の現場でイキイキと輝く活躍する女性にその醍醐味や将来の目標などを伺いました。
文/編集部 写真/松浦幸之介
独創的な発想と丁寧な手仕事で地域独特の味わいを世界に発信
Profile
チーズ職人
チーズ工房【千】sen
柴田千代さん
千葉県出身。「チーズ工房【千】sen」をひとりで切り盛りしながら、食育にまつわるイベントなどにも積極的に参加。独創性あふれる数々のチーズは、国内外のコンテストで高く評価されている。
チーズ作りで日本の未来への貢献をめざす
柴田千代さんが代表を務める「チーズ工房【千】sen」は千葉県・大多喜町の閑静な山間にある。都心からは車で約90分。便利とはいえない立地にもかかわらず、月に一度の営業日には国内外から訪れた多くのファンでにぎわう。
同工房で作られるチーズの原材料は千葉県産。酵母と乳酸菌にも県内で採取された独自の菌が調合されている。これらを土地由来の微生物の力を借りて発酵させることで、ほかの地域の物とは異なる、独特の食感と味わいを持つ新しいチーズを誕生させた。
チーズはすべて手作り。状態が安定するまでは、水分量が偏らないように天地を返し、発酵の状態を見て温度や水分量を調整する。「我が子のように手をかけ、日々の成長を見守る。これは生き物と一緒に仕事をする良さでもあります」と柴田さんは朗らかに笑う。
大切にしているのは、丁寧な手仕事と土地の物を生かしたものづくり。その背景には、自分の手で“日本独自のチーズ”を開発したいという思いもある。
「後追いで本場や王道を上回るものを作るのは難しい。チーズ工房が1軒もないこの町で、オリジナルを探求したほうが、世界に通用するチーズを生み出せるのではないかと思ったんです」
柴田さんがチーズ職人を志したのは18歳のとき。元は料理人志望だったが、食の大切さや安全性について調べるうち、誰もが安心して食べられる未来に受け継がれる食品を作りたいと考えるようになり、チーズに行きついた。
本格的にチーズ作りを学ぶため、北海道に乳製品加工実習工場を持つ東京農業大学へ進学。20代の期間をチーズの本場、北海道やフランスでの修業に費やした。2014年には自身の工房兼店舗をオープン。会社員との兼業でチーズ作りに励んだが、「しばらくは売れない時期が続いた」と柴田さんは語る。
「知識と経験があればおいしいチーズは作れます。でもそれだけではニーズのある市場に届かないんですよ。1個500円のチーズを作っても、過疎化と高齢化が進んでいるこの地域では響かない。だったら世界で売ろう。そのためにも『すごい!』『おいしい!』という客観的な評価で付加価値を得ようと、コンテストへ挑みました」
決意から約3年後の2017年。日本一のチーズ職人を決める「ALL JAPAN ナチュラルチーズコンテスト」で、表面に竹の炭をまぶしたチーズ『竹炭 濃厚熟成』が最高賞を受賞。以来、顧客のみならず全国のレストランからの発注や、イベントに招かれる機会が増え、チーズ作りを専業にできたという。
「今の目標は、『あの人の作ったものが食べたい』と言ってもらえるような人になること。心のあり方は“作品”にも表れます。謙虚さと学ぶ姿勢を忘れずに、常識を破れるようなチーズ作りを追求していきたいと思います!」
Off-time
柴田さんのオフタイム
旅に出ることが大好き
できるだけ遠くへ行きます
職人の仕事は部屋の中で完結してしまうので、価値創造力が伸びにくいんです。だから自分に投資して本物を作る職人さんに会いに行ったり、美術館へ行ったり、遠くへ旅したり。最近は半分仕事、半分休暇で屋久島に行ってきました。写真は屋久島の書道家の馬場貴海賀さんと♪
松崎農園
松崎恵子さん
地元の仕事仲間の私から見た千代さんは、職人としての最高をめざしつつ、常に子どもたちの未来のことを考え行動する方。 笑顔で周りを巻き込み引っ張っていく強さと繊細な心遣いも魅力です。