CHALLENGE 実証試験を超えて
日立建機では土木・建築や鉱山業界の課題解決に向けて、さまざまな企業と共同で実証試験に取り組んでいる。その一例を紹介するとともに、遠隔・自動化の今後を概観する。
RBTシリーズの発売に先立ち、三井商事株式会社の協力を得て自動化の実証試験を行った。同社八千代工場・産業廃棄物中間処理場の汚泥固化処理プラントにおいて、オペレータが担っているプラントへの汚泥投入作業を自動化。汚泥をすくう場所で、車体側のボタンを押してバケットの位置情報をセットしたら、続いて汚泥を投入する場所でもボタンを押して同じく位置情報をセットする。あとは運転モードを搭乗操作から自動運転に切り替え、リモコンで作業を開始すれば、油圧ショベルが汚泥をすくい投入する作業を自動で行ってくれる。作業が進んで汚泥の液面が下がっても、センサで感知し自動でバケットの位置を調整するので空掘りを防止できる。シンプルな作業の繰り返しであるため、車体側のボタンは停止ボタンを含めて3つしかなく、操作も簡単に行える。
遠隔操作については、EIZO株式会社、サイレックス・テクノロジー株式会社と日立建機の3社で、RBTシリーズの油圧ショベルで利用できる遠隔操作ソリューションを開発し、実証試験を行っている。遠隔操作を行う際、通常の2次元カメラ映像では奥行きなどがわかりにくい場合もある。そこでEIZOの3次元画像処理技術や高圧縮映像伝送技術、サイレックス・テクノロジーの通信技術を組み合わせ、立体的な映像によって遠近感や土砂の色を、山間部など通信環境に不安のあるエリアでもリアルタイムに把握できるようにした。そのほか、株式会社加藤組、西尾レントオール株式会社の協力を得て、3種類の機械を1台のコックピットで切り替えて遠隔操作する実証試験を行った。既存の油圧ショベルなどに遠隔操縦装置を搭載し、5Gの通信回路を用いて実施した。こうしたさまざまな実証試験により、施工現場の課題解決につながる効果を確認している。
キーパーソンが語る!
遠隔・自動化 5つのポイント
小高 克明
コンストラクションビジネスユニット
開発設計統括部 ソリューションキャリア製品開発部 部長
境 和樹
新事業創生ユニット
顧客ソリューション事業部 商品企画部
技術支援グループ 部長代理
井村 進也
研究・開発本部
先行開発センタ 担当部長
POINT 01:生産性の向上
遠隔操作の場合、施工現場の状況は機械に設置したカメラの映像などに頼るため、人が搭乗するより情報量が制限されるケースもある。そこで掘削・積込みなどの作業モードを車体に記憶させ、必要な時に作業モードを選択することで機械が作業をアシストする機能を導入すれば、生産性の向上が期待できる。「作業を自動アシストする機能などを付加し、人の作業と変わらない精度・速度を実現するソリューションの提供をめざしています」(境)
POINT 02:働き方改革の推進
深刻な労働力不足の中、これまでのようにあらゆる作業を人に頼っていると労働環境が過酷になり、人もいっそう集まらなくなる悪循環に陥る。「人が乗らずに自動で動く機械があれば、人の作業を減らすことができます。労働力不足の解消はもちろん、労働環境の改善にもつながります。さらには熟練労働者が減りつつある現状、そのノウハウを生かした作業を機械で代替することも可能になります」(小高)
POINT 03:オープンイノベーション
日立建機のみで遠隔・自動化のあらゆるソリューションをゼロから生み出すのは、たとえ得意とする技術領域であっても、時間やコストの面で現実的に限界がある。「分野ごとに技術やノウハウで優位性を持つパートナーを見つけ、一緒にオープンイノベーションで進めていくことが必要になります。EIZO、サイレックス・テクノロジーとの協創をはじめ、さまざまなパートナーと課題解決に取り組んでいます」(境)
POINT 04:協調安全
現場では、まずは何より安全が第一。従来は人が大きな声で注意を促したり、作業中に人が立ち入れないエリアを設定することで安全を徹底していた。「遠隔・自動化が進むと、今後は一つの現場で多数の機械が動き回るようになります。日立建機以外のメーカーでも遠隔・自動化が進めば、他社の建設機械とも情報を共有していくことが必要です。そこで、人と機械、そしてシステムが情報をやり取りし、共有することで実現する“協調安全”が非常に重要になります」(井村)
POINT 05:研究・開発の今後
遠隔・自動化の普及には、情報連携の容易さが鍵を握る。日立建機では、前田建設工業株式会社と株式会社イクシスと共同で、油圧ショベルを施工会社のシステムと接続して自律運転するためのインターフェースを検証するなど、さまざまなデータと連携させた遠隔・自動化の実証試験に取り組んでいる。「遠隔・自動化の共通要素をまとめ、外部システムとも連携できることは当社の強みです。これをベースに、より高度な遠隔・自動化を進めていきます」(小高)