働くカラダの処方箋
正しい水分補給の方法と熱中症の防ぎ方
済生会横浜市東部病院
患者支援センター長
谷口英喜先生
専門は麻酔・集中治療、経口補水療法、体液管理、臨床栄養、周術期体液・栄養管理など。著書に『いのちを守る水分補給 熱中症・脱水症はこうして防ぐ』『熱中症からいのちを守る』(ともに評言社)など。
日々忙しく働かれている皆さんへ、人生100年時代を豊かに過ごすために不可欠な健康の知識を伝える連載です。
第2回は炎天下や高温多湿な環境での作業時に注意したい、熱中症対策がテーマ。健康を維持するための水分補給や予防、応急処置の方法を解説します。
構成・文/編集部 イラスト/丹下京子
水分補給と休息で体温上昇と脱水症を防ぐ
熱中症とは、気温や湿度が高い環境下で起こる不調の総称。多量の発汗などで体が脱水状態になり、体温の調整ができなくなったり、体内の水分や塩分のバランスが崩れたりすることで発症します。軽症なら病院に行かなくても治りますが、重篤化すると命に関わることもあるので油断は禁物です。
予防のコツは、こまめな水分補給で脱水症を防ぐこと。人間の体は1日あたり約2.5ℓの水分を排出しており、健康維持には同量以上の水分補給が必要とされています。特に汗をかきやすい夏や体調不良時は脱水症になりやすいので、より多く水分を摂りたいところ。汗で失われた塩分を補うため、しっかり食事を摂ることも大切です。
飲料は体にやさしく吸収しやすい水やお茶がおすすめ。ただし、冷た過ぎると食欲の減退や胃腸の働きの低下を招くので適温を意識しましょう。
水分補給時に冷房で涼む時間や休息をとり、労働や運動で上昇した体温を下げると、より予防に効果的です。
もうひとつ気をつけたいのが、軽度の熱中症は症状を自覚しにくいこと。特に小児や高齢者は、気づかぬうちに病状が悪化しているケースも少なくありません。高温多湿な環境で過ごした後は必ず水分や食事をしっかり摂り、涼しい場所で体を休めてください。
もし、熱中症の兆候が見られたら、冷たい経口補水液を飲ませて脱水症の改善を試みたり、首や脇の下を保冷剤などで冷やしたりして、少しでも早く体温を下げることを心掛けましょう。
熱中症を防ぐ正しい水分補給の方法
1日に必要な水分量の半分は食事から摂る
飲料の摂り過ぎは食欲の低下につながるので、“食事の合間に飲料で水分を摂る”くらいのバランスが理想的。食事に含まれる水分は吸収に時間が掛かるため、ゆっくり水分を摂ることに相当します。糖や塩分などの栄養も摂れるので、健康維持のためにも食事は大切です。
炎天下で過ごしたら帰宅後すぐに水分補給
数時間後に症状が出るケースもあるのが、熱中症の怖いところ。暑い場所で過ごした日は体調に違和感がなくても、早めに体を休め、水分や食事をしっかり摂りましょう。働き過ぎや食事抜きでの飲酒は、熱中症の発症につながることもあるので、できるだけ避けて。
寝る前の水分補給で就寝中の熱中症を予防
就寝中も体の水分は失われ、体が脱水状態になると熱中症や心筋梗塞、脳梗塞を引き起こしやすくなります。寝る前の水分補給には常温または温めた水か、経口補水液を5分ほど掛けて飲むと、夜間に尿意をもよおしにくいので、ぜひお試しを。
必要な水分は8回に分けて摂る
一度に水分を摂り過ぎると、脳の働きで尿意が起こり、かえって水分の排出量を増やしてしまいます。効率的に水分を体に蓄える方法としてぜひ知っていただきたいのが、180㎖の飲料を1日に8回に分けて摂る「6オンス8回法」。左の表のように時間を決めておけば飲み忘れを防ぎやすいので、喉の渇きを感じにくくなる高齢者の脱水症対策にも効果的です。
水分補給に適した飲み物
[平常時] 水・お茶など
食事をきちんと摂れていれば、水やお茶で十分。ジュースやカフェイン入り飲料でもOKですが、カフェインや糖分の摂り過ぎは体によくないので飲み過ぎにはご注意を。
[運動後・体調不良時] スポーツドリンク・経口補水液
前者は運動後の栄養補給や疲労の回復に。後者は、下痢や嘔吐などの疾病や、脱水症時に適しています。ただし、飲み過ぎは糖分や塩分の過剰摂取を招くので、常飲は控えましょう。
アルコールは体内の水分を奪うのでNG
利尿作用に加え、アルコールの分解時に体内の水分を消費するため飲酒の際は食事やお酒と同量の水分を摂りながら飲むことを心掛けて。
現場作業時に取り入れたい熱中症対策
朝礼時に健康チェック
熱中症予防の観点で確認したいのは、①発熱や下痢などの不調がないか、②寝不足ではないか、③朝食を食べたか、④二日酔いではないか。健康状態を見て無理のない作業の割り振りや、適切な休憩の声掛けを行いましょう。
頭に熱がこもらないよう工夫
体温をコントロールする脳の視床下部に熱がこもると、熱中症を発症しやすくなります。ヘルメットや日よけなどで日光の直射を避けるほか、空調付きのヘルメットで頭部の風通しをよくするなどの工夫を心掛けましょう。
服装は風通しを重視しこまめに汗を拭く
汗が蒸発するときに起こる気化熱には、体温を下げる働きがあります。汗の蒸発を促すには通気性のよい服や空調服で服と肌の間に風を送りこんだり、濡れタオルやウェットシートなどで汗を拭いたりするのも効果的。
1時間おきに休憩し体をクールダウンさせる
仕事に集中し過ぎて水分補給を忘れると、熱中症リスクが高まります。極力1時間おきに休憩をとり、冷房の効いた涼しい部屋や木陰などで体を休めましょう。空調がない場合は首や脇の下を保冷剤で冷やすのも◎です。
塩飴や塩タブレットは飲み物とセットで使う
汗で失った水分と塩分を同時に補給できるので、効率よく熱中症対策ができます。水分補給の目安は塩分0.1mgあたり100㎖以上。塩分の過剰摂取を防ぐため、食べ過ぎやスポーツドリンクとの併用は避けましょう。
もし熱中症の症状が表れたら?
保冷剤などで体を冷やす
まず、日の当たらない場所や涼しい室内に移動させ、ベッドや平らな場所へ寝かせましょう。次に体温を下げるため、太い血管がある首の両側、両脇の下、脚のつけ根を保冷剤や冷たいペットボトルなどで冷やします。
冷たい経口補水液を飲ませる
冷やした経口補水液(500㎖・ペットボトル1本分)をできるだけ早く飲ませ、不足した水分を補います。その後も尿から排出される成分を補うため、もう1本分(500㎖)の経口補水液を少しずつ飲ませ続けてください。経口補水液がない場合はスポーツドリンクでもOK。ただし、牛乳やアルコール、真水の大量摂取は不調が悪化するので避けましょう。
重症度別熱中症の症状
[軽度] 応急処置で対応可能
めまい、立ちくらみ、食欲低下、腹痛、大量の発汗、筋肉痛、こむら返りなど
[中度] 病院への搬送が必要
体温の上昇、頭痛、吐き気、嘔吐、全身倦怠感、虚脱感(体に力が入らない)など
[重度] 早急な入院治療が必要
体に触ると熱い、汗をかいていない、けいれん、意識障害、手足の運動障害など
次の兆候が見られたら周囲の人はすぐ対応を!
- 新品のペットボトルを自力で開けられない
- 口に含んだ水分が口からこぼれてしまう