浦幌試験場所長に聞く 品質評価現場のリアル
日立建機の製品でお客さまから高い評価を得ているのが、耐久性と操作性だ。
そうした信頼を製品開発の最終段階で支えているのが、日立建機浦幌試験場である。ここでは浦幌試験場の役割と意義をリポートする。
お客さまの手に渡る前に不具合を抽出することが我々の使命
矢口 裕之
品質保証本部 開発・市場品質統括部
開発試験部 浦幌試験グループ
主任技師(浦幌試験場所長)
品質を保証するための要の施設
帯広市の中心から東へ車で2時間ほど、十勝郡浦幌町北部の雄大な自然の中に日立建機の浦幌試験場はある。東京ドーム約91個分という広大な敷地の中に周回路や傾斜路、デコボコ道を模したラフロードなどを備える。1992年に竣工して以来、30年以上にわたり、実機による性能や信頼性の試験・評価の役割を担ってきた。
場内ではリジッドダンプトラックがうなりを上げながら坂道を登り、それとは対照的な小型のホイールローダが土煙を上げて走り回る。なかなか普段では見ることのできない光景だ。
浦幌試験場がつくられた目的の1つが、設計開発品質の妥当性の検証である。主な業務となっているのが掘削や走行の耐久試験。試験は日中だけでなく24時間行うことも可能である。
「ここでは、実際に使われる環境に近づけて試験を行っています。機械がお客さまの手に渡る前に不具合を出し尽くすことが我々の使命であり、日立建機の品質を保証するための要の施設です」と浦幌試験場所長の矢口裕之は試験場の意義を説明する。
試作段階での試験のほか、不具合が発生した際に施した対策についての効果確認試験なども行う。
三現主義で品質を守る
近年デジタル技術の進化により、モノづくりにおける設計開発のプロセスではシミュレーションや仮想現実などを活用するシーンも増えている。それでも日立建機がこれだけ広大な試験場を保有し、品質保証の要と位置付けるのはなぜだろうか。
「例えばエンジンの耐久試験を行う場合、工場の中でエンジンだけを回すのと実際に使われる現場の環境で走らせるのでは試験の意味が全く違います。試験を行うことが目的ではありません。お客さまのところで不具合を出さないために、不具合を出し切る。試験はそのためにやっているのですから。その意味でも、現場で現物を見て現実を知る、いわゆる三現主義の考え方は、今後のモノづくりにおいても変わらないと考えています」(矢口)
もちろん、デジタル技術の普及による恩恵も少なくない。今では写真・動画データを活用し、現場の詳細な状況をリアルタイムで遠方の工場や設計開発部門に共有できる。「何かあった時の対応は、格段にスピードアップしました」と矢口。三現主義へのこだわりとデジタル技術の融合が、徹底的かつ早期的な問題解決、ひいてはお客さまの満足度向上につながっている。
何のための試験かを意識する
矢口はこれまで、開発試験や工場での品質管理、さらにはお客さまの手に渡った後の製品の改善などを行うサービス部門での勤務経験もある。そんな矢口が常に意識しているのが「何のために仕事をするのか」だという。その姿勢は10代目所長として着任した浦幌試験場でも変わらない。
毎週試験場のスタッフを集めて開くミーティングでは、前週行った試験や今週行う予定の試験について話し合うが、そこでも誰のために何のためにやるのかを問うようにしているという。試験の目的を理解するのはもちろんのこと、試験に臨む際には常に新たな着眼点を持つことも大事だと矢口は考える。
「例えば、部品を交換する指示があったとします。部品を交換すれば終わりますが、実際にはどんなシーンでなぜ交換するのか、交換作業は簡単だったのか難しかったのか、同じ作業でも見方を変えることで得られる情報は全く違いますし、それは必ずお客さまの満足につながるはずです」
今後もお客さま満足のためには、さまざまなニーズに対応し、新しい技術にも積極的に挑戦していかなければならない。そんな中で、浦幌試験場の役割もますます重要になっていくのだろう。