知恵と情熱で新たな扉を開く 新事業創生 Story
2022年4月、継続的な新事業創出をめざして立ち上がった、「新事業創生ユニット」。
始動から2年半、取り組みの進捗や今後の展望について、副ユニット長の山田雅弘に話を聞いた。
文/尾越まり恵 写真/関根則夫(Portrait)
2023年実施の第1回KβCでの「遊心」チームの発表。100チーム124人の応募があり、20チームが、社長など幹部の前でプレゼンを行った。
日立建機では、お客さまの声を製品開発やサービスにより生かしていくため、2022年4月に部署横断の「新事業創生ユニット」を新設した。ここでは新規事業の創出を担う。
「お客さまの課題は時代とともに変化しています。これからは、当社の強みであるハードとしてのモノづくりだけでなく、新しいテクノロジーを活用した“コトづくり”にも挑戦し、ソリューションを提供していく必要があると考えました。新事業創生ユニット ビジネス開発室では、継続的に新たな事業の柱をつくることをめざします」と新事業創生ユニット副ユニット長の山田雅弘は話す。
ビジネス開発室では、社内で新事業を創生するインキュベーションの役割を担うとともに、外部のスタートアップ企業と連携して新事業を創出するアクセラレーションの役割を持つ。
「アクセラレーションのチームは国籍もさまざま。世の中のニーズに応えていくためには社内だけで解決するには難しい課題もあり、外部のイノベーションを当社の事業とつなぎ、連携プロジェクトなどを興して新事業開発を加速させていく狙いがあります」(山田)
社員が本当にチャレンジしたい事業アイデアを広く募集する
1,000個アイデアが出ても、そのうち事業化できるのはせいぜい数個程度、それが新事業の世界だ。社内のインキュベーションの領域では「とにかく数を集める必要がある」と考え、22年夏に全社員を対象にした「KENKI βUSINESS CHALLENGE(KβC)」を立ち上げた。社員たちが自ら挑戦したいと考える事業を広く募集し、本審査を通過したチームは、業務時間を利用しながら事業開発を進めていくことができる仕組みである。
とはいえ、これまで新事業を考えたことのない社員がアイデアを生み出すことは難しい。そのため希望者に、アイデアの創出を実践したり、自らのアイデアを磨いたりする、多くのワークショップを開催している。
「自分が挑戦したいアイデアが、必ずしもお客さまのニーズと合致しているとは限りません。メンタリングをしながら伴走し、実際にお客さまにヒアリングを行って、具体的にどんな課題が解決できるアイデアなのか、数カ月かけてブラッシュアップしていきます。この期間が新事業の質に大きく影響します」と山田は話す。
こうして時間をかけて事業化検証を行ったアイデアは、新規事業審査会へと進み、通過するとプレ事業として、いよいよ本格的な準備段階へと進む。
現場の社員から生まれた5つのアイデアが事業化検証へ
第1回のKβC本審査を通過し、事業化検証のステージに進んでいるチームが現在5つある。日立建機のファンクラブ事業や、施工現場の業務効率アップ、風力発電のメンテナンス事業など、多様なアイデアが事業化に向けて検証されている。
さらに、第1回の本審査で残念ながら不通過となったが、そのアイデアが日立建機日本の目に留まり、24年11月から事業化が決まったものもある。サービス員2人からなる「遊心」は、建設機械のオーナー向けに、シートやレバーなど、内装を自分好みにカスタムできるパーツ販売を提案(TIERRA+JOURNAL参照)。ホイールローダや油圧ショベルのオーナーは自家用車と同様、愛情やこだわりが強い人が多く、その市場を狙った。
「『遊心』は建設機械のメンテナンスなどを担当し、お客さまと同じように油圧ショベルを愛するチームが、実際にこういうサービスがあればいいのに、と考えたことから生まれたアイデアです。そんな現場の社員の思いを形にできたのは、KβCという機会があったからであり、KβCの意義を実感しています」(山田)
ファンクラブ事業では、重機ファンの結集の場として第1回オフ会を開催。こだわりの重機コレクション・作品を持ち寄ってもらうなど、盛況のうちに幕を閉じた。
新事業領域を見極め 柔軟な仕組みづくりを推進
第2回のKβCに向けた研修の参加者は第1回より2,000人以上増え、5,875人が参加。KβCの社内での認知度は確実に高まっており、社員のアンケート結果でも、「面白い取り組みだと思う」「自分は応募できないけれど、挑戦する人たちを応援したい」といった声が集まっている。
また、まさに今、事業化検証を進めている社員たちは「これまでは決められた仕事を一定の裁量の中でこなしていたけれど、新事業は自分で考え、動かない限り進まない。自発的、自律的に働く姿勢が身についた」「自分たちの想像だけでなく、お客さまの声を聞きに行く大切さが分かった」などの感想が聞かれ、KβCへの参加が、仕事に対する姿勢の変化につながっている。
こうして新事業創生ユニットの活動に一定の成果が認められる一方で、課題もある。「最初は多くのアイデアを集めることをめざしたために、小さな事業が点在している状況は否めません」と山田。今後は、日立建機が新事業としてチャレンジする領域を選定し、事業を創出して育てていけるよう、柔軟に仕組みを変化させていく考えだ。
「新事業のテーマ設定や事業化の進め方を工夫し、継続的に新規事業を生み出せる組織になるため、チャレンジを続けていきます」(山田)
現場の業務効率を改善する新事業の技術検証の様子。社内の協力を得て実機を用いながら進めている。