スマートな製品開発を実現するシミュレーション技術
建設機械は、世界中のさまざまな環境で、大きな負荷が掛かる作業を行っています。日立建機は、建設機械の試作機での実験技術にシミュレーション技術を融合することで、短期間での的確な製品の開発評価を可能にしました。安全性や耐久性などを向上した、より高い性能を持つ製品をお客さまへ迅速に提供していきます。
FEMを用いた強度解析
日立建機では、長年にわたりFEM(Finite Element Method:有限要素法)を用いた強度解析を製品開発に活用しています。
強度解析技術の進歩は非常に早く、現在では、より緻密でより大規模なシミュレーションが可能となっています。
日立建機では、部品単体での評価だけでなく、複数の部品を組み立てた状態での評価を行い、製品の信頼性の向上を図っています。また、異なる二つの物理現象を、それぞれの相互作用を踏まえて解析する連成解析など、その用途はますます拡大しています。
図. 油圧ショベル上部旋回体のフレームにおける強度解析(部品単体での評価)
部品を組み立てた状態での解析では、無負荷の状態では存在していた部品と部品の隙間が、負荷を掛けることで生じた変形により無くなり、接触してしまう場合があります。 接触を伴うシミュレーションには、挙動の把握に多数の特別な設定が必要で、解析規模が膨大になります。そのため、HPC(High Performance Computing)技術を取り入れることで、短時間でより高精度な解析を実現し、製品の開発期間の短縮に貢献しています。 図. 遊星歯車減速機の強度解析(組み立て状態での評価)
現実の事象を、リアルタイムでサイバー空間上に再現するデジタルツイン技術を用いた解析に注力しています。
この技術は製品開発だけでなく、例えば、お客さまの機械から得た稼働情報を基に、サイバー上で機械の動きや負荷を再現し、機械の適切な保守・メンテナンス時期を提案することにも応用しています。
製品開発時に行う解析技術を、サービス事業にも活用することで、燃費やメンテナンス費用などのライフサイクルコストの低減に貢献しています。
図. 超大型油圧ショベルのデジタルツイン
振動解析技術
さまざまな環境下で、オペレータの作業性を向上させ、快適な乗り心地を追求するため、振動現象の分析・解析技術を構築し、製品を開発しています。
モーションキャプチャと機構解析の導入により、建設機械特有のオペレータへの大変位の運動などに対する分析・解析技術をさらに向上させています。
図. モーションキャプチャによる人体挙動分析
また近年は、ICT建機をはじめとする建設機械の急速な情報化に伴い、多種多様な電子デバイスが車体に搭載されています。これまで培ってきた防振設計技術を活用することで、それらデバイスの耐震性を確保するとともに、耐久性のさらなる向上を図っています。
図. 上部旋回体のフレームにおける振動モード分析
左:シミュレーション結果 右:実機測定結果
周囲騒音解析技術
建設機械が発する騒音レベルには、周囲環境を保持するための規制があります。それに対応するため、建設機械が周囲に放射する音の大きさを解析し、開発前の事前評価を行っています。
また、音を実測する調査方法の1つとして、ビームフォーミング法による音の可視化を採用しています。車体周囲における音圧分布の解析結果と、実際に測定・分析した結果の比較検証から、より正確な評価を実現しています。
図. 車体周囲に生じる騒音の可視化
左:シミュレーション結果、右:ビームフォーミング法による実測結果
熱流体解析技術
建設機械のエンジン室内は、エンジン稼働時に発生する熱で高温となります。そのため、冷却ファンにより、空気を取り込み、熱交換器とエンジン室内の温度を下げる必要があります。日立建機では、熱流体解析によって、熱交換に十分な風量が供給されていることや、エンジン室内の必要な場所に風が流れることを事前評価しています。
また、エンジン停止時には冷却ファンも停止するため、エンジン室内の温度が上昇し、機器類の許容温度を超えることが懸念されます。そのような現象も事前評価し、吸気開口位置や開口面積を変更して改善を図っています。
図. エンジン室内冷却風のシミュレーション
VR技術の活用
建設機械の組み立てやメンテナンス時の作業性を、VR技術を用いて、開発設計段階で事前検証しています。部品の付け外しやメンテナンスのしやすさなどを、サイバー空間上で実寸大の工具を持ちながら評価することが可能です。今後もVR技術の活用により、お客さまやサービス員のメンテナンス時の疲労を軽減する「人にやさしい機械」をスピーディーに開発、提供していきます。
図. VR技術を用いた整備性の検討