株式会社新井組
兵庫県西宮市
千葉 広祐 氏
国土開発工業株式会社
中村 智昭 氏
会社概要
新井組は創業以来、時代とともに変化し複雑化する様々な社会問題の解決に取り組んできた。そして、それらの取り組みを通じて培ってきた技術力や組織力を「新井組品質」として積み重ねてきた。社是は、建設事業を通じた新たな価値創造と社会貢献を誇りとすることだ。ICTの活用は、まだ「情報化施工」と呼ばれていたころから経験を重ねており、主に道路工事・河川工事などにICT施工を導入してきた。現在はICT推進室が中心となって,ICT施工の活用拡大と更なる深化に取り組んでいる。
最大30台のダンプトラックが活躍
今回、伺ったのは埼玉県秩父市大滝で施工中の「R3二瀬ダム土砂搬出災害復旧その1工事」。秩父の二瀬ダム貯水池内の大洞川に堆積した土砂20万m³を掘削し、大洞川流域内の土砂置場に運搬する工事だ。
現場では、トータルステーション(TS)で位置情報を取得するZX200X-6のICT建機と、通常機のZX200-6の2台で掘削作業を進めている。もう少し工事が進むと同じくTS仕様のマシンコントロール(MC)ブルドーザーも導入される予定だ。さらに掘削土砂を現場から置場に搬出するために、最大30台の10トンダンプトラックも活躍する。30台がフル稼働すると、一日に約700m³もの土量を扱うことになる。
衛星電波が入らない
現場は秩父の山中にあり、切り立った山に上空視界が遮られる。一般的にICT建機は、GNSS(全地球測位システム)衛星からの電波を利用して位置情報を取得するが、谷間などで十分に衛星電波が受けられないと位置を特定することが難しくなってくる。
そのため、この現場ではGNSSを利用せずに、光波測量機器であるTSを代わりに利用している。建機の背中には、GNSS電波を受信するアンテナ・受信機の代わりに、TSからのレーザー光を受光するための特殊なプリズムが搭載されている。
現場を見通せる場所に設置したTSが、ICT建機のプリズムを視準して3次元座標を計測し続け、その結果を無線などでICT建機のキャビンに送り、自機位置をモニター上にリアルタイムで表示する仕組みだ。
GNSSとTSの違い
協力会社である国土開発工業の中村氏は、「これまで主にGNSS仕様のICT建機を使ってきたが、この現場で初めてTS仕様の油圧ショベルを導入した。マシンコントロールの使用感としては、あまり変わらないというのが正直な感想。ただ、TSはGNSSと違って、旋回時に計測用のレーザー光をブームやアームで遮ってしまうと、位置情報を見失ってしまうことがある。この特徴は知っていたが、TSの設置場所を工夫しているので、この現場で苦労したことはない」と話す。
新井組の千葉氏は、「自分は、山中での現場経験が多いので、GNSSの電波で苦労する経験もある。以前の現場では、衛星数が少なくなるとFLOATという状態になり、精度が回復するまで施工を待つこともあった。TS仕様であれば、こうしたことが起きないため、山間部や橋脚下、トンネルなどの現場で活躍できるだろう。一方で始業前と終業後にTSを設置、撤収する手間はある。ただ便利な方式なので、これから導入される現場は増えていくと思う」と説明する。
Solution Linkage Mobile
この現場はICT建機だけでなく、大量のダンプトラック運行管理にもICTを導入している。別会社の運行管理システムを導入したこともあるが、位置精度の関係で使えず、Solution Linkage Mobileを選択した。
現場で掘削した堆積土砂は同じ流域内の土砂置場に運搬し、別の工事での利用を待つ。発注者は、きちんと指定した場所に運んだことの証明が欲しいということで、Solution Linkage Mobileの運行管理結果を提出している。
「ダンプの位置情報を地図上で把握できるので便利。安全運転指導や安定した位置情報取得、手軽に運用できるところが優れている」と千葉氏は評価する。
現場これから、本格的に3次元設計データを活用していくフェーズに移ってくる。年度末の工期に向けてICTを活用した取り組みは進んでいる。