東広島市
建設部 災害復旧推進課
南 博文 氏
市の概要
人口約19万人、1974年4月に西条・八本松・志和・高屋の4町の合併により、広島県内で12番目に誕生した。長い歴史と伝統、恵まれた自然環境を背景に「賀茂学園都市建設」および「広島中央テクノポリス建設」の2大プロジェクトを柱に、社会基盤や産業基盤の整備を進めてきた。また、2005年2月、黒瀬・福富・豊栄・河内・安芸津の5町との合併を経て、内陸部の山々や瀬戸内海の多島美を望む海岸線まで市域が広がり、歴史・文化等の多くの地域資源が加わった。
広島県東広島市は、平成30年7月に発生した豪雨災害で、1622件(査定件数)の災害が発生した。内訳は、道路や河川などの公共土木災害が533件、農地や農道、ため池などの農地農業用施設災害が1028件、林道災害が61件となっており、市では、農地の被災個所について農林水産省の国庫負担申請を行うため、災害査定調査を行った。
災害査定調査は、市の職員が測量ポールとテープメジャーを使った方法での調査が主体となっている。この方法は、職員が2、3人で現地に向かい、被災個所に測量用のポールを設置、個所ごとに3カ所の断面線を設定してスタッフ(標尺)で高さを計測する。その後、手作業で横断図などを書き起こし、災害査定設計書を作成するが、大変労力がかかり職員の負担も大きかった。
2018年10月に東広島市から日立建機に、Solution Linkage Survey(SL-Survey)をこの調査に利用できないかと打診があり、SL-Surveyを使って被災個所の状況を点群化し、点群処理ソフトで縦横断を抽出方法が可能か調査・実証を行った。
当時のSL-Surveyは、Androidスマートフォンと、GNSSアンテナ、VRS(仮想基準局)サービスを使い、計測対象の動画を撮影するだけで、3次元モデルをクラウド生成、スマートフォンに返して簡単に土量を算出するソリューションとして提供していた。現在ではVRSの代わりに2周波のアンテナモジュールを採用して、Advanced版も提供している。
この適用調査では、被災した市内の田やため池の現況をSL-Surveyで撮影して3次元モデルを生成、スマートフォンから完成した3次元点群データ(LASファイル)を取り出してパソコンの点群処理ソフトで加工する。点群処理ソフトは、点群から任意の場所の断面図を切り出してCAD形式のデータとして出力が可能なため、災害査定設計書のフォーマットに貼り付けて利用できる。現地で被災個所を撮影すれば、簡単に断面図が作成できることになる。
実際に現地での人工と計測時間を、従来方法とSL-Surveyで比較したところ、従来が4人で計測時間2時間、SL-Surveyでは一人で計測時間1時間となり、概ね8倍程度の効率化が確認できた。災害復旧推進課の南専門員(当時)は「職員自らが、大量の被災個所を測量する場合を想定すれば、とても有効な手段になる」と話している。
SL-Surveyは、土量計測以外にも生成した3次元モデルや点群の2次活用ができるのも特長だ。Advanced版では現場座標に合わせた点群が生成できる「標定点機能」も追加されており、日立建機では体積計測だけでなく幅広い活用方法を提案していく。