株式会社中筋組
島根県出雲市
写真左:株式会社中筋組
工事統括本部 土木部 主管 持田 千晴 氏
写真右:オーケーリース株式会社
執行役員次長 兼 ICT事業部長・出雲営業所所長 小村 直弘 氏
中筋組本社
会社概要
中筋組は昭和29年に設立された島根県出雲市の建設業者である。「社会のために存在し、社会と共に繁栄する」という中筋グループ共通理念のもと土木工事やトンネル工事、下水道工事など幅広く手掛けている。
令和5年度静間仁摩道路大屋地区改良工事
中筋組が施工する令和5年度静間仁摩道路大屋地区改良工事は、山陰自動車道の延伸により一時的に途切れた生活道路の機能回復が目的であり、約1年をかけて約2万4千m3の土砂を処理する。本現場ではICT施工が実施されており、丁寧に整形された法面は日立建機のICT建機、ZX200X-7で仕上げたものだ。一見、順調に施工している本現場には、「見えない課題」があった。
不感地帯における通信環境の課題
本現場は山を切って延伸した山陰道に面しており、現場の大半は携帯通信が不安定だった。現場と事務所間の移動は車で往復30分ほどかかるため、現場の状況確認や業務連絡のたびに移動時間がかかり緊急の連絡にも不安があった。過去には現場まで光ケーブルを敷設することも検討したが、費用面がネックとなった。「現場への負担を抑えつつ、通信環境を改善する手段はないか」と考えていた持田氏は、建設機械のリース・レンタル業を営むオーケーリース株式会社(島根県出雲市)の小村氏から、Starlink BusinessとSolution Linkage Wi-Fi(以下SL-Wi-Fi)を併用する提案を受けた。
Starlink Business(衛星通信) × Solution Linkage Wi-Fi(通信範囲拡張)
「Starlink Business」は、大規模な低軌道衛星群によって提供される、次世代の衛星通信サービスであり、KDDI株式会社(東京都千代田区)などが取り扱っている。従来の衛星通信サービスに比べて高速かつ低遅延のデータ通信を実現している点が特徴である。衛星通信のため携帯通信環境がない山間部や離島などでも通信環境を構築できる。
一方のSL-Wi-Fiは、オーケーリース株式会社がレンタルしているモバイル通信環境を改善・拡張するソリューションだ。親機と子機が存在し、携帯電話のLTE回線もしくはLANに接続した親機がWi-Fi環境を構築し、子機がそれを中継し拡張する。子機を増設することで高低差や障害物のある現場でも柔軟に運用できることが強みだ。
SL-Wi-FiとStarlink Businessを併用することのメリットは、通信範囲の拡大にある。衛星通信をするStarlink Businessは電源をいれると周囲数十mにWi-Fi環境を構築できるが、本工事では施工範囲が約100mあり、現場全体をカバーすることができなかった。そこでStarlink単体では届かないエリアと高低差をカバーするために、SL-Wi-Fiの親機子機を1台ずつ設置し、現場の隅々までインターネットにつながる環境を実現した。
この取り組みを主導した持田氏が導入効果について教えてくれた。「導入以前はスマートフォンでのインターネット検索や、現場との連絡に苦労したがそれが解消され、移動時間も大幅に削減された」持田氏は続ける。「Starlink BusinessとSL-Wi-Fiは、一度設置すればあとは電源を入れるだけで使えるので運用は楽だった」と評価した。「今後は発注者との遠隔臨場などにも使用する予定で、現場の生産性はさらに上げられるだろう」と話す。
中筋組が示す可能性
新たな工夫で不感地帯の現場にWi-Fi環境を構築し、連絡手段の確保と遠隔臨場による生産性の向上をめざす中筋組。ICTの手段が充実しても、ネットワーク環境がなければ本領を発揮できないことは多い。中筋組の取り組みは山間部でのICT活用のような、これまで実現が難しかったことでも創意工夫と新たな挑戦で乗り越えていけることを示してくれた。