株式会社大糸
長野県北安曇郡白馬村
土木事業本部 建設部工事課 主任
中村 智幸 氏
土木事業本部 建設部工事課
三田 元太 氏
会社概要
1959年に白馬村(長野県北安曇郡)で創立以来、度重なる苦難に出くわしつつも、時代の変化に対応しながら、社業の軸となる「土木事業」と「リゾート事業」を展開し、2024年に創立65周年を迎える。
この2つの軸は、性質の違う事業ではあるが、大きな特徴であり強みと捉えている。観光を基幹産業として発展してきた白馬村は、1998年の冬季オリンピック招致に成功し、道路をはじめとする社会資本が短期間のうちに整備され現在に至る。その事業への関わりは、観光産業で生きる白馬村で企業を営む大きな特徴だ。「建設業の視点から観る観光インフラの在り方」など、相互の距離感をより近くに考えると、思想の関連性や地域特徴などが見え、必ず地域に貢献できると信じて日々取り組んでいる。
Solution Linkage Point Cloud
現況測量における安全性の担保が課題
今回、大糸がSolution Linkage Point Cloud(以下、SL-PC)を導入したのは、白馬村のスキー場における雪崩対策工事だ。この工事は、雪崩の発生を防止したり、発生した雪崩の流下を阻止または誘導を図ったりする工事である。
雪崩対策工事を施工するにあたり、現況測量はとても重要になる。しかし、雪崩が発生しやすい箇所に測量用の構造物を設置する必要があり、測量業務では急斜面での転倒や落石などの危険性もある中での作業が必要になる。
そこで日立建機日本から、SL-PCを活用して空中写真測量を自社で行う提案を受けた。
自社保有資産の有効活用が可能に
SL-PCは、ドローンで撮影した写真をクラウドにアップロードするだけで点群生成が出来る。これまで現場状況の撮影だけに利用していたドローンを、自動航行させて測量エリアを空撮することで、自社での空中写真測量が可能になった。また、以前から保有していた点群処理ソフトを十分に活用できていなかったが、SL-PCを導入することで、点群生成後の点群処理を行うなど有効活用できるようになった。
Solution Linkage Survey
対空標識座標の計測時の安全性も向上
ドローンを使った空中写真測量を行うには、対空標識の座標計測が必要になる。従来の測量では測量機材であるスタッフ、レベル、テープ、三脚2基、自動追尾型トータルステーション、木杭など大荷物かつ高価な機材を担いでの登山が必要であった。重量もあり、両手が必ずしも空かない状況での登山は、常に危険との隣り合わせであった。そこで、VRSを用いて簡易な計測を可能とするSolution Linkage Survey(以下、SL-Survey)を導入することにした。
SL-Surveyは、スマートフォンで計測対象物を動画撮影し、クラウド上で3次元データにすることで土量算出ができる。今回は、SL-Surveyに利用するアンテナを用いた位置計測機能で、対空標識の座標を計測することにした。SL-Surveyはカバン1つに収まるサイズのため、山登りにも邪魔にならず、両手も自由に使えるようになり、安全性が飛躍的に向上した。
人工と経費を大幅に削減
従来の測量では、3人で6日の工数(18人工)がかかっていた。しかし、SL-PCとSL-Surveyを利用することで、2人で1日の工数(2人工)で測量が完結し、16人工の工数削減に成功した。また、従来の外注測量費用と比較して、自社で空中写真測量を行うことで、大幅な経費削減にもつながった。
発注者との協議でICT施工の対象になり、「令和5年度長野県優良技術者表彰」を受賞
本現場を受注した当初は、ICT施工対象の工事では無かった。しかし、ICT施工が徐々に浸透し始めていることもあり、発注者の長野県から「工事をICT施工でやってみないか」と提案を受けた。そこで日立建機日本に相談し、SL-PCとSL-Surveyを活用し測量業務をICTで行うことを提案された。発注者に協議したところICT施工として認めてもらえることになり、工事評価点においてもICT施工の加点がされて、「令和5年度長野県優良技術者表彰」を受賞することができた。
3次元データを活用し、安全性・生産性向上に寄与
施工計画時や発注者への現地説明を行う際も、わざわざ危険が伴う現地へ出向く必要がなくなった。特に機械設備のモノレール設置業者は、レール延長の算出などの現地で実測が必要な作業も、SL-PCで作成した3次元データを活用することで現地計測の手間を削減できた。
地域に貢献し顧客創造を追求する
3次元データの活用により、周辺住民に工事内容を分かりやすく説明できるようになった。私たちの行動や取り組みが、地域活性化の一助となればこんなに嬉しいことはない。長い歴史を築き上げられた先人の皆様への感謝を忘れることなく、また、時代の変化に対応していく柔軟性と積極性を兼ねそろえ、社員一丸となって未来ある企業へと成長できるよう精進する所存である。