岡田土建株式会社
千葉県銚子市
土木部所長
山﨑 正俊 氏
東総測量設計社
伊藤 秀晃 氏
日立建機日本
天海 亮 氏
日立建機日本
得冨 亮太 氏
明治38年創業以来、1世紀を超えて事業を営む。「地域社会に必要・最適な会社であること」「お客様との信頼関係を大切にすること」「絶えず創意工夫に取り組み、提案力・技術力を向上すること」を社の行動指針に、建設業界を取り巻く様々な環境の変化に対応し、発展を続けてきた。
山崎氏は、「社のまとまりがよく、社員が作業所に分かれていても、自発的に皆が集まり連絡を取り合う社風が気に入っている」と話す。現場出身の岡田知益社長もICTへの取り組みに積極的で、社員を大切にしてくれるという。「不易流行」を念頭に、変えるべき事、受け継いでいくべき事を常に考え、地域社会にとって必要・最適な会社であり続ける。
今回、山﨑氏がICT施工を行った現場は、関東地方整備局 利根川下流河川事務所が発注した「R1利根川右岸笹本町築堤工事」。千葉県銚子市内にあるこの地区は、2019年の台風19号で浸水被害が発生した。再びこの地区で洪水による浸水被害を起こさないように整備を進めている堤防の築堤工事だ。工事は、堤防の長さが624m、築堤盛土が4万3500m³、法面整形9950m²、坂路工や天端の敷砂利などを行う。
実は山﨑氏は、この現場の前に担当した工事でもICT施工を全面的に取り入れている。道路盛土と法面整形の現場だったが、日立建機のマシンコントロール(MC)油圧ショベルとブルドーザーを使って施工した。ICT建機に搭載する3次元設計データは岡田土建が自ら作成している。その経験を生かし、今回の築堤工事でも全面的にICT施工を取り入れることにした。だがここで、スムーズに施工に入れない事態が発生する。
コロナ禍で工期が減っていく
「工事発注当初は概略設計をいただいていたが、6月上旬に引き渡される予定だった詳細設計が7月上旬に順延した。8月のお盆の時期にようやく工事用道路に着手できた」(山﨑氏)。
昨年春から本格化したコロナ禍は、発注や設計業務にも影響を与えていた。その後、詳細設計は受領したが、設計照査を行うと修正が必要な個所がいくつも現れた。
コロナという事情があっても、施工者は工期を守らなくてはならない。「施工範囲がなかなか決まらない中で、じりじりと減っていく工事期間を考えると、取り入れたかったGNSSによる締固め管理は断念せざるを得なかった。時間が足りないので暫定的に施工範囲を決めて、砂置換法による従来型の施工管理を採用し、盛土を始めた」という。
肝となるICT建機での施工でもクリティカルな対応が必要となった。3次元設計データは、発注者から支給される平面図、縦断図、横断図をもとに施工者側で作成する。「たとえ暫定の図面でも、とにかく3次元設計データを作成してICT建機に搭載、施工にとりかかった。設計の変更があれば、すぐに設計データを修正しては、ICT建機に載せなおすということの繰り返しで盛土を進めていった(山崎氏)。」
地元構成のチームワーク発揮
ここで力を発揮したのが、岡田土建と同じ地域で事業を展開する東総測量設計社と、日立建機日本のチームワークだ。
「当社と、地域に根差した測量会社と日立建機日本で構成する “チーム” は、地元ならではのフットワークの良さで、どんどん困難を解決できた。岡田土建からそれぞれに指示をしなくでも、チーム内での情報共有が完ぺきだった」と山﨑氏は、笑顔で振り返る。
現場を差配する岡田土建、基本測量や起工・出来形測量、3次元設計データ作成を担う東総測量設計社、ICT建機周りのサポートを行う日立建機日本が、軽快なフットワークで課題を解決した。
「東総測量設計社が手早く設計データを修正すると、そのデータを即日ICT建機に搭載して施工にフィードバックされるので、現場の手待ちもなくスムーズな施工ができた。これだけ修正が多い中で、この対応は素晴らしかった(山崎氏)。」
土工完了部から出来形取得
このチームワークは、クリティカルな施工期間の短縮でも効果を上げた。出来形を最後にとるのではなく、盛土が完了した部分から、どんどん地上型レーザースキャナ(TLS)で記録していった。部分的にTLSで出来形を取得するのは確かに手間がかかるが、10回にわたってデータを取得した。
「工期を短縮するためには、土工が終わった部分から出来形ヒートマップを作っていけば、その部分は後工程の植生工(法面を植物で覆い、法面保護を図る工法)に移れる。土工部分は雨が降ると形が変わってしまい、再度出来形のために成形などが必要になるが、芝を貼ってしまえば形を保てるし手戻りがない。UAV計測は結果が出るまで一週間程度かかることもあるが、今回のやり方は気軽に現場に来てもらえるからこそ実現できた」。山崎氏は、即日の確認立合ができたことや実施検査も希望日通りに実施できたと、チームワークに万全の信頼を寄せる。
3者の信頼関係があってこそ
山崎氏が強調するのは「現場で働く者同士、上下関係ではなく “一緒にひとつの現場をつくる” 地元の共同体という信頼感」だ。東総測量設計社の伊藤氏も「山﨑さんとの信頼関係があるからこそ、測量側の観点から進言もできる」と明言する。日立建機日本の天海も「現場に行く機会を増やすように心がけている。現場が頭に入っているからこそ対応力も上がる」と力強く語る。
「丁張もいらない、施工管理も楽になる、施工も正確、出来形管理も楽。ICT施工を使わない選択肢はない」。山崎氏は、これから取り掛かる工事も、このチームで取り組んでいきたいと微笑んだ。