大森建設株式会社
茨城県久慈郡大子町
大森裕一郎 氏
専務取締役
ICT取り組みのきっかけ
大森建設の初めてのICT施工は、平成30年10月から令和元年9月に施工した茨城県発注の「一般国道118号道路改良工事(その1)」で、GNSSを使ったICT油圧ショベルと、それに付随するICT荷重判定装置「ロードライト」を初導入した。
茨城県が行ったICT発注方式は、「ICT活用モデル工事(施工者希望型)」。「3次元起工測量」と「3次元設計データ作成」に関わる作業を、県内の測量・建設コンサルタント業者に担当してもらい、県内業者の3次元データ対応を促進する方式だ。茨城県は、「チャレンジいばらきⅡ型」として、起工測量と設計データを施工者が内製化する方式も取り入れ、現場ごとに異なる課題に対して適切なICTツールを選択できる、真の生産性向上をめざしている。
この初めてのICT施工は、高所における切土工事だった。大森専務は「通常施工の場合、現場の技術者は、危険な高所でも丁張をかけに崖を登らなければならない。また切土工事は、切りすぎると修正が非常に大変で、オペレーターにとっても緊張する作業になる」と思い返す。
この現場にICT施工を取り入れたところ、「高所の丁張かけが不要になり、技術者の安全性が大きく向上した。またオペレーターも“切りすぎを気にしなくてよかった。施工がとても楽になった”と話していた」という。
この「一般国道118号道路改良工事(その1)」は、茨城県による「令和2年度~チャレンジいばらき~第62回建設業者表彰」で、知事特別賞表彰「ICT賞」を受賞した。
3現場目のチャレンジ
同社は、年間に施工する4、5件の現場のうち、毎年1件はICTによる施工を行う方針だ。ただ、大子町周辺は山間の現場も多く、衛星からのGNSS信号が入りづらいケースもあるため、平成30年からICT施工に取り組み、今年が3件目となる。
その現場は、茨城県が大子町南田気地内で発注した道路改良工事。ICT施工で使用する機械は、ICT油圧ショベルZX-200Xが1台と、D6タイプのICTブルドーザーが1台だ。
工事ボリュームは、路体盛土工が1万4200m3、法面整形工が1120m2で、いずれもICT施工で行う。起工測量にはUAVを選択、3次元設計データ(4、5断面)についても設計会社に外注して作成した。以前の工事では地上型レーザースキャナー(TLS)による起工測量も経験済みだ。完成した施工用の3次元設計データは、日立建機日本との共同作業で建機にインストールする。施工中に設計変更があった場合も、日立建機日本がサポートする。
「ローラーの転圧管理にもICTを導入したかったが、この現場では6、7カ所から盛土材を集めているため、試験施工の手間がかかり断念した」(大森専務)という。外から調達する盛土材の土質が同じであれば、ICTの転圧管理のほうが、砂置換法などに比べて施工管理が楽になるが、この現場では逆に手間が増えてしまう。ICTはあくまで便利に使うツールであり、全体最適を考えた導入が必要なのだ。
働き方改革にもつながる
大森専務はICT施工について「切土に向いている。マシンコントロールをかけておけば、設計面より切りすぎることもなく安心できる。またブルドーザーは経験を積まなければ操作が難しい建設機械だが、マシンコントロールがあれば乗り慣れていないオペレーターでも安心して施工できる。現場管理の方では、とにかく丁張かけが削減できることが効果として大きい。残業時間が減り、働き方改革にもつながる」と、感想を述べる。
大森建設ではいま、若い従業員に切削オーバーレイでのICT施工を見せるなど、教育にも余念がない。大森専務自身も、国や県のICT施工意見交換会に積極的に参加している。
「現場施工で1つでも2つでも省人化が期待できるなら、絶対にICT施工は導入すべきだ」と、大森専務は改めて強調する。