小澤建設株式会社
長野県駒ケ根市
会社概要
小澤建設は昭和15年に創業。以来、半世紀以上にわたり住宅建築・建設・土木工事などを中心に地域に根差した施工を実施してきて、2025年には創業85周年を迎える。別荘、ペンションの建築に至るまで、あらゆる建築設計・施工を行っている。住宅だけでなく、土木や不動産業務も行っており、豊富な実績と経験で、幅広いアドバイス・プランニングを行っている。地域の自然素材を活用した「地域循環システム」や「CO2削減」にも積極的に取り組んでいる。
Solution Linkage Compactor
遠隔地の現場事務所から、ソリューションを活用し施工現場を効率的に管理
今回、小澤建設がSolution Linkage Compactor(以下、SL-Compactor)を導入したのは、長野県伊那市の一級河川・天竜川水系三峰川に建設された美和ダムにおける「令和4年度 美和ダム上流土砂掘削工事」である。
三峰川は南アルプスに源を発し、天竜川にそそぐ一級河川で、天竜川水系としては最大の支流である。その流域の多くは山岳地帯で降水量も多いことから、古くから暴れ川として知られ、幾度となく甚大な洪水被害をもたらしてきた。そうした洪水による被害の軽減だけでなく、農業用水などの確保や発電への利用などを目的に建設されたのが「美和ダム」だ。しかし流域の地形の特性からダム湖に大量の土砂が流れ込み、長期的にはダムの治水・利水機能への影響が懸念された。そこで貯砂ダムや土砂バイパスを設けるなどして堆砂の減少を図るとともに、堆積した土砂の掘削・搬出が進められている。
本工事では、ダム湖の底に堆積した約6万㎥の土砂を、伊那市を中心に10カ所ほどの指定場所に運び込んでいる。土砂運搬先の指定場所のひとつ、伊那市内で造成中の東原工業団地では、約6haの土地に土砂を搬入し整地・転圧も担っている。
従来の締固め管理方法における課題
広大な造成現場における整地・転圧作業には、従来は砂置換法での管理を行っていた。砂置換法では重い砂や検査用機材を何度も運ぶため、広大な造成現場では現場担当者の身体への負担が大きい。さらに現場事務所から施工現場まで約20km離れており、片道だけで30分、往復で1時間も移動しなければならない。
また、砂の乾燥や書類作成などの検査以外の作業に長時間を要するため、省人化・省力化が可能な方法はないかと探していた。
そこで広大な造成地の整地・転圧の管理を省力化する手段として、日立建機日本からSL-Compactorを提案され、導入を決めた。
遠隔地にある現場事務所から施工現場の転圧状況を管理
SL-Compactorはクラウド型の転圧管理ソリューションで、従来は人の目と手でチェックしてきた転圧状況を、リアルタイムでクラウドに記録するというもの。これにより転圧回数の確認や施工管理の手間を大幅に削減できる。さらに遠隔地からでもパソコンやタブレットでリアルタイムに状況を確認できるため、オペレータだけでなく管理者の負担も減らすことが可能である。
転圧管理ソリューションを導入し約80%の工数削減に成功
本工事では、約6haの施工エリアがあり、約1.5haずつの4工区で施工を行っている。従来は1工区の1層で5回の砂置換法での試験を行う必要があった。そのため1層で現場作業が10時間、書類作成も10時間を要すると想定していた。そこでSL-Compactorを導入することで、約20km離れた現場事務所から転圧回数を確認することができるため、現場作業を2時間に削減することができた。また、発注者に提出するための書類作成も、パソコン上で 「締固め回数分布図」 「締固め層厚分布図」 「走行軌跡図」 を簡単に帳票出力でき、2時間削減することができた。
1層で16時間の工数削減に成功し、工事全体では計16層の管理を必要としていたため、転圧管理における現場作業と書類作成だけでも、計256時間の工数削減をすることに成功し、工期を大幅短縮することができた。
また、SL-Compactorはオペレータによる操作もシンプルである。古瀬氏は、「例えば転圧管理システムでは、他社なら10 以上の操作が必要なところを日立建機製品はたった 3 つで済みます。わがままを聞いてもらうだけでなく、使う側に立つという姿勢に好感が持てますね。」と話す。
ダンプトラックと重機の稼働停止時間を最小限に
従来の砂置換法では、現場作業の後に砂の乾燥を行っての試験結果を算出するまで、現場作業を行う必要があった。本工事は施工エリアも大きいため、ダンプトラック10台、ブルドーザ1台、バックホウ1台、タイヤローラ1台を1日稼働停止させなければならなかった。
SL-Compactorを導入し、締固め管理を転圧回数管理にすることで、最小限の現場作業を行った後、すぐにダンプトラックと重機の稼働を再開することができる。そのため毎層ごとに発生する1日の稼働停止期間を、無くすことになり効率的な現場作業を可能とした。
ICT施工が普及拡大しても施工管理の基本は変わらない
初めてのICT施工は、まだ情報化施工と呼ばれていた約10年前に基礎の裏込めの転圧管理に挑戦した。その時は手探りで苦労した思い出もあるが、今回は管理者および施工者の知識や経験に加え、SL-Compactorを導入したことで格段に操作性も上がり、不安なども無く施工することができた。
一方、ICT施工が普及・拡大する中で、古瀬氏が少し気になっていることがあるという。それは施工者側、発注者側双方の管理スキルだ。「我々は手作業の時代から現場を見ているので、万が一データに誤りがあってもどこかで気付きます。ICT施工が当たり前の世代にもそこに気付いてもらえるよう育んでいきたい」と古瀬氏は話す。施工の基本を身に付けること――、それは先進技術や最新のノウハウを学ぶよりも、ICT施工の普及には重要であると言えるかもしれない。