有限会社高橋建設 取締役
取締役
高橋 伸幸 氏
ICT施工は相応の投資を要しますが、使い込むほど精度は向上するので、ある程度のスパンで回収を図る気持ちが大切です。
高知県中西部の高岡郡津野町に本社を置く有限会社高橋建設は、1966年の創業以来、地域への貢献を掲げ、県や町の公共工事に取り組んできた。取締役の高橋伸幸氏はこう語る。「地域密着を進めてきた当社も、従業員の高齢化や人材採用難の悩みを抱えていました」
そこで、将来を見据えた技術継承や生産性を担保する施策としてICT施工に着目。2017年から工事の積極的なICT活用を先導していった。最初の現場は、高知県にとっても初のICT施工案件、国道439号の2車線化工事だった。県内で測量機器やシステムを提供する企業と連携し、3次元測量による設計データ形成を進め、現場施工に日立建機のICT油圧ショベルZX200Xを導入した。
「単に測量や設計、施工の3次元化を図っただけでは、すぐに成果が上がるわけではありません。機械の特性を把握した上で、自分たちが活用できるデータを作って現場で生かすことが大事だと分かりました」
そう確信し、高橋氏は測量からシステム活用、そしてデータ形成まで、一貫して自身で担うことをめざした。
「特にパソコン操作に詳しいというわけでもなく、3次元設計データを扱うのも初めてでした。しかし、『投資を無駄にできない。絶対に成功させなければ』と、自らを奮い立たせました」
一方、従来の手順からICT施工への切り替えには、社内一丸となった意識のベクトル合わせが不可欠だ。そこで導入に際して、丁張による従来の測量と、3次元計測を併用。そのスピードや精度、現場の労力などを比較することで、「みんなで成功させよう」という機運が生まれたという。これ以降、高橋建設はICT施工の取り組みをさらに加速していくことになる。
複雑な掘削現場で小型のICT建機を導入
2021年2月、高橋建設は『2020年度i-Construction大賞 直轄工事/業務部門』で、最高賞の国土交通大臣賞に輝いた。
県発注の「国道439号社会資本整備総合交付金工事」における小規模土工の現場で、工事の内容は路側帯を拡幅するというもの。谷側の狭い場所で急斜面を掘削するため大型機は入れない。人が立ち入る測量や丁張設置など、作業の危険性も高い。また掘削が複雑なため、土量の割には作業に時間を要するなど厳しい条件がそろう。この現場はICT活用対象外工事であったが、高橋氏は「こういう難しい現場条件でこそ、ICT施工でチャレンジしたい」と決意。
ところが、「ミニショベルに3次元マシンガイダンスを搭載した床掘作業の施工事例はなく、いろいろなメーカーに聞いてみても『機械はない』の一言。日立建機だけが『対応しますので、一緒に挑戦しましょう』と、二人三脚で取り組んでくれたことが、この受賞につながっています。3次元マシンガイダンスを載せたZX40Uは、最終的には要求以上の施工精度を実現してくれ、安全性向上や工期圧縮にもつながりました」
最後に高橋氏は、ICT活用の成功ポイントについて、こう述べる。
「例えば、山間部の現場では衛星環境が不安定になる時間帯があるのですが、それを機械のせいにするのではなく、状態の良い時に機械での作業をし、それ以外は別の作業をすればいい。そうやってICTの特性を把握し、現場での働き方を効率化する姿勢も大切です。今後は、現場を知っている者がICTを使って活用の幅を広げ、そのノウハウを若い世代に伝えていきたいですね」