株式会社月の輪建設工業
岡山県久米郡美咲町
会社概要
昭和58年に創業し、岡山県久米郡美咲町に事務所を構える株式会社月の輪建設工業は、「誰からも信頼される企業になる」ことをモットーに、土木工事・建築工事に取り組んでいる建設業者だ。同社は概算計画から土工・舗装・建築に至るまで、極力自社で行う方針をとっており、発注者の要望に一気通貫で応えられるという強みをもつ。近年はICT建機などに積極的に投資し、生産性の向上を図っている。
Solution Linkage Point Cloud
河道掘削工事における3次元データ活用
今回、月の輪建設工業がSolution Linkage Point Cloud(以下、SL-Point Cloud)を導入したのは、岡山県発注の河道掘削工事だ。本工事は2018年に発生した西日本豪雨の影響で堆積した土砂の搬出が目的で、約1,200㎥の土砂をダンプトラックに積み込んで土捨場まで運搬する。当初の設計図書にはICT施工が含まれていなかったが、赤本氏が発注者に提案した結果、全工程がICT施工となった。起工測量から出来形管理まで、月の輪建設工業が保有するUAVで空中写真測量を行う計画だが、写真測量に欠かせない位置合わせ作業は多くの時間と労力がかかることが課題であった。
空中写真測量を行う際、空撮で捉えた対空標識とその座標を紐づける必要がある。現場によるが、一度の測量で扱う写真が380枚、対空標識10枚の場合、それぞれの画像データと座標データを紐づけるにはおよそ3時間要する。月の輪建設工業の赤本氏は、「この作業を負担に感じ、測量会社に外注する施工業者も多い。当社もせっかくUAVを購入したが、この作業に工数を割くことができず1年ほど眠らせていた」と振り返る。そこで同氏が目を付けたのが日立建機のSL-Point Cloudだった。
SL-Point Cloudは画像データと座標データをクラウド上にアップロードするだけで3次元データを自動生成するソリューションだ。専用の対空標識を用いることで位置合わせ作業も自動化することができる。
「夕方にアップロードし、翌朝には3次元データができている。これならいける」赤本氏の思惑どおり手軽に測量ができるようになったことで、週に1度UAVで撮影し、出来高管理や提出用の3次元データ作成を実現。「3次元で管理することで、従来の縦横断測量が不要となり、発注者・施工者双方の手間の削減にもつながった」と赤本氏はメリットを強調する。
Solution Linkage Mobile
位置情報を活用したダンプトラックの運行管理
同現場のさらなる安全性・生産性向上にむけた取り組みを検討していた赤本氏は、富士岡山運搬機株式会社(岡山県津山市)から、ダンプトラックの運行管理ソリューションSolution Linkage Mobile(以下、SL-Mobile)の提案を受け、導入を決断した。
SL-Mobileはスマートフォンや車載専用GPS端末の位置情報を活用することで、現場の管理業務を効率化するソリューションだ。前者は専用アプリを起動するだけで、後者はダンプトラックのシガーソケットに差し込むだけで利用できる。現場管理者は常に重機やダンプトラックの位置を確認できるだけでなく、ダンプトラックの運行状況を把握できる。事前に進入通知エリアを設定することで、スマートフォンを携帯している積込重機オペレータは、ダンプトラックの到着タイミングが読めるようになる。
また速度超過アラートを利用することで、指定速度を超えた際に管理者とダンプトラックのオペレータに通知が届く。これにより安全運転に対する注意喚起をタイムリーかつ自動的に行うことができる。
「SL-Mobileは重機オペレータからの評判が非常に良い。ダンプトラックが帰ってくる直前まで均し作業ができるため、作業効率が上がったと喜んでいる」「また、急カーブの下り坂はどうしても速度がでやすいため、時速50kmを基準にアラートを設定。ダンプトラックのオペレータも安全運転を意識しており、速度超過もダンプトラックへのクレームも出ていない」と赤本氏は導入後の手応えを話す。
10年後の人手不足を見据えて ~1人で現場を管理できる環境の整備~
月の輪建設工業はなぜここまでICTに注力するのか?その背景には将来の人手不足への危機感があると赤本氏は述べる。「現場監督、重機オペレータ、建設コンサルタント、測量業者など、今はなんとか間に合っているが今後10年が境目」「目の前には2024年問題もあり、労働時間を短縮しつつ売上を維持する必要がある」「それらへの対策としてICTに取り組んできた。10年後にいきなりICTを始めるのは難しいので、これまでかなり助走してきた自負がある」
ICTへ積極的に投資し、必要な機材を揃えてきた同社。その結果、従業員数とほぼ同数の現場を回せるようになったという。「人は置かれた環境に合わせて成長する。会社としてそのために必要な投資は惜しまない」
また赤本氏はICTの普及には、決め事や提出書類の多さが壁になっていることを指摘する。「これらが改善されれば、ICTはさらに広がる」とその必要性を強調する。
建設業全体が直面する人手不足という大きな課題に対して、ICTの全面活用が解決の糸口になることを月の輪建設工業は教えてくれた。