株式会社月の輪建設工業
岡山県久米郡美咲町
会社概要
昭和58年に創業し、岡山県久米郡美咲町に事務所を構える株式会社月の輪建設工業は、「誰からも信頼される企業になる」ことをモットーに、土木工事・建築工事に取り組んでいる建設会社である。同社は土木工事の設計から土工・舗装・建築に至るまで、極力自社で行う方針をとっており、発注者の要望に一気通貫で応えられるという強みをもつ。近年はICT建機などに積極的に投資し、生産性の向上を図っている。
ICTを建築工事に積極活用
今回、月の輪建設工業は岡山県美咲町発注の建築工事である「三保会館新築工事」と「美咲町消防団消防機庫新築工事」の2現場を同時期に受注した。平行して進捗していく2つの現場を限られた人数でどう管理するかと、限られた工期内での基礎工事の工程管理が当初からの課題であった。月の輪建設工業は計画時から様々なICT活用を検討し、この課題に取り組んだ。
Solution Linkage Assist
建築根伐及び埋戻し作業へのICT活用
ひとつめの現場となる三保会館新築工事では、自社で保有している日立建機製ICT油圧ショベルZX-200X-7のマシンコントロール機能(以下、MC機)、標準油圧ショベルZX135-5及びZX40-5Bの後付けマシンガイダンス機能(以下、MG機)、GNSSローバーを活用し、根伐と基礎の埋戻し作業を行った。
従来、同規模の建築根伐工事では、根伐の位置出し、掘削、高さ確認までの工程で3人/日×3日ほどの人工がかかっていたが、MC機を活用することで、位置出しや高さの確認作業が不要。根伐作業はオペレータ1名だけで作業可能となり、今回の根伐作業は1人/日×2日で完了した。根伐後の砕石敷きから捨てコンの位置出し作業は従来3人/日×6日ほどの人工かかっていたが、MC機能とGNSSローバーを活用することで、2人/日×4日で完結することが可能となった。基礎の埋戻し作業では、マシンガイダンス機能を後付けしたショベルを活用した。オペレータ自身で埋戻しの仕上り高さを確認しながら作業ができるため、少ない人数でより効率的に作業を行うことが可能となり従来方法なら5人×6日かかっていた埋戻し作業がMG機を活用することで3人×5日で完結することが可能となった。月の輪建設工業は自社で保有するICT機械を有効的に活用することで人と工期を大幅に削減することができた。
「現場代理人の仕事としても、従来の方法ではこの規模の管理には1現場あたり2~3人必要となるが、ICT技術を活用することで2現場を3人で管理することができている。MC機の活用で現場での確認作業がゼロになり、代わりに施工図の確認などほかの作業に時間を使うことができた。MC機の導入は労働環境の改善にもつながっている」と赤本氏はいう。
MC機・MG機だけでなく、GNSSローバーの導入効果も顕著である。「ローバーの精度はとても高く、全体を通して誤差1cm以内に収まっている。従来の方法では人も手間もかかり、誤差が出る場合もあったが、ローバーを活用してからは精度もよく測量も早い」と、赤本氏は本工事におけるICT活用の手応えを話す。
Solution Linkage Mobile
位置情報を活用した生コン車の運行管理
月の輪建設工業のICT活用は、生産性向上だけでなく品質管理にも及んだ。工事に必要な生コンクリートを製造プラントから建設現場まで運ぶ生コン車に、ダンプトラックの運行管理ソリューションSolution Linkage Mobile(以下、SL-Mobile)を導入した。
SL-Mobileは、スマートフォンや車載専用GPS端末の位置情報を活用することで、現場の管理業務を効率化するソリューションである。スマートフォンタイプは専用アプリを起動するだけで、車載専用GPS端末タイプは工事車両のシガーソケットに差し込むだけで利用できる。
このSL-Mobileの導入により、現場管理者は常に生コン車の位置を確認できるだけでなく、運行状況も把握できる。また、事前に進入通知エリアを設定することで、スマートフォンを携帯している現場管理者や作業者は、生コン車の到着タイミングが読めるようになる。
「生コンは時間経過で状態が変化するため、指定された時間内に現場に運搬することが非常に重要。到着が遅れるとコンクリートの品質低下につながってしまう。今何台目がこちらに向かっているか、その到着時間含めて運行管理ができるSL-Mobileの存在は非常にありがたい」と赤本氏はいう。また、「品質管理の面でも今回の工事監理者からの評価は高く、プラントを出発してから現場に到着するまでの時間を容易に資料化することができるため、品質の証明としても活用しやすい」と導入後の手応えを話す。
「今回は簡単に導入できる車載専用GPS端末を利用したが、今後は安全面への配慮として、子どもの多い公園や生活道路が近い現場では、運転者に速度の注意喚起などアラートを飛ばせるスマートフォンタイプも検討してみたい」赤本氏は今回の取り組みを振り返り、さらなる活用への期待を見せた。
Solution Linkage Survey
スマートフォンを活用した根伐土の計測
月の輪建設工業のICT活用は、もうひとつの現場でも行われていた。美咲町消防団消防機庫新築工事では、基礎建設のため掘削した根伐土の計測に、日立建機の土量計測ソリューションSolution Linkage Survey(以下、SL-Survey)を活用した。
SL-Surveyは、スマートフォンで計測対象を撮影するだけで土量計測ができるソリューションである。撮影した動画をもとにクラウド上で3次元データを作成し、土量計測や計測結果をレポートとして出力できる。従来の計測方法とは異なり、あらかじめ土山を整形する必要がなく、今回計測した根伐土は約50m3の山だったが計測から結果を確認するまで約30分で完結した。
赤本氏は、導入前後の変化についてこう語った。「ほかにも土山を計測して3次元データを作成するサービスとしては、ドローンやレーザースキャナーを用いた計測もあるが、SL-Surveyはスマートフォンひとつで計測できるため、とても手軽でよかった。この規模の土山の測量には、従来はテープを利用して2人で1時間くらいかかっていたが、SL-Surveyを使えば土山の整形作業も不要だったため、1人で30分程度と、人も時間も削減することができた。計測する土山がもっと多い現場では、その差は顕著になると考えている」
10年後の人手不足を見据えて
社を挙げた積極的なICT活用とDX人材の育成
月の輪建設工業では、公共工事のみならず、土木、建築、民間工事、下請工事と幅広くICT施工を活用している。その理由について、赤本氏はこう語った。「人手不足が深刻化するなか、いかに少ない人数で現場を回せるかが重要になってくる。今回の2現場同時進行に関しても、ICT技術を活用しなければ実現できなかった。現場の規模に関係なく3Dデータを作成することで①GNSSを利用したMC機・MG機、②自動追尾トータルステーションを利用したMG機、③3次元測量活用といった自社で保有しているICT機器の中からその現場にとって最適な方法を選択してICTを活用することができる。今後も月の輪建設工業では工事全体の効率を上げることを最重要テーマとして、ICTを活用することで今よりさらに少人数での管理・施工を行えるようにしていきたい」
また、月の輪建設工業では、ICT活用と並行して、社内業務のDX化も進めている。「今、社内では内勤者全員がオンラインでのDX授業を受講し、アプリ作成の勉強をしている。今後は見積書作成から請求書処理まですべてDX化し、社内業務の効率を上げることで、現場に回せるお金を増やしたい」新しいチャレンジを始めたことで、社内が活性化してきていると赤本氏はいう。
「少し未来の話になるかもしれないが、3次元設計データの作成も、AIなどを活用し全自動でつくれるようにしたい。今、さまざまな人と連携し、開発にチャレンジしている。その方たちとともに、10年後には絶対に実現する未来を描いていきたい」
ICTの活用で、受注できる件数が拡大している月の輪建設工業。未来を見据え積極的にICTを活用する月の輪建設工業の今後に期待したい。