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 日立建機グループは従業員合計が約26,000名となり、うち日本人は約10,000名です。海外従業員がマジョリティであり、今後は教育やグループアイデンティティ浸透をさらに強化すべき時期にあると考えています。新たに独自展開を始めた米州以外にも、アフリカや中央アジアなどへのビジネス展開が進んでいますので、増えているそれらの地域の従業員や代理店に、会社の基本的な考え方や事業の方向性などをグローバルベースで浸透させる活動を強化します。ここでは、行動規範であるKenkijinスピリットの理解、共感を得ることから始めます。Kenkijinスピリットは、世界中の従業員に共通する価値基準・行動規範であり、2008 年に策定しました。2004年頃から、急激に海外売上高が増加して日本人以外の従業員が増えたこともあり、社内のコミュニケーションがうまくいっていませんでした。その理由は、言語や暗黙知などの慣習の違いだけではないと考えて、企業文化の拠り所として、価値基準や行動規範を明文化したKenkijinスピリットを、グローバルで議論を行い策定しました。社内のベクトルが同じ方向を向くことで、事業が拡大し、売上収益が1兆円を超えて2023年度は1.4兆円に達するなど、Kenkijinスピリットを策定した意味が大いにあったと私は思います。  時代の変化、従業員の多様化も進んでいるので、Kenkijinスピリットの伝え方をリセットすることも大切です。例えば、ブラジルやチリ、ペルーなどの南米の国々はスペイン語やポルトガル語など言語や慣習も違い、現地の従業員や代理店との協創において、目線を合わせる必要があります。どうすれば伝わるかなどを、改めて考える必要があります。今後さらに注力する北中南米は、我々にとって未知の地域でもあるため、グループアイデンティティの浸透に力を入れていきます。  今後の当社の成長において、一番の基礎になるのは人財強化であり、製品開発や販売の強化も基本は人財から始まります。そのための教育や現場の実践経験を重要視しており、体制も強化しています。私の年代に比べて、今の若い人たちには多様性があります。一人ひとりの個性があり、考え方もさまざまです。しかし、仕事をする上では一つになることも大事です。  ここで、私は「コミュニケーション」を重視しています。コロナ禍以降、在宅勤務が世の中で増えました。もちろん、それを支えるシステムなどが浸透した面も大きいと思います。しかし、直接的なコミュニケーションは大事であり、「リアルコミュニケーション」は当社の約9割の従業員が行っています。例えば、社内にいれば他の部署が大きな受注を得るために急遽ミーティングをしている姿が目に入ります。そこで、もしその受注が決まれば自分の仕事にどのような影響があるかを考えるでしょう。また会社の中で、他部署の人と休日に見に行った映画の話などもできるでしょう。これらは在宅勤務では無理です。同じ場所で顔と顔を合わせているからこそコミュニケーションの幅が広がるのです。構成するメンバーに多様性がある場合にこそ、何か心を一つにするアクションが必要です。また「リアルコミュニケーション」は現場で働く人へのリスペクトです。私は今まで多くの方々とコミュニケーションをしてきました。直接話すことで、言葉で伝えられる以上のこと、例えば相手は前向きな説明をしているのですが、ちょっとした顔色の変化から、その案件には課題があるのではないかと気が付いたこともあります。また私から事業内容の説明をする時に、もっとよく理解してもらうために、相手の反応で説明の強弱を変えたりします。これらも多くの「リアルコミュニケーション」をしてきたから、自然とそのようなことに気が付き、できるようになるのだと思っています。私は当社の従業員は全員が幹部になれる能力を有していると思っており、さらにコミュニケーション能力を伸ばして、自分のポジションを高めてもらいたいと思っています。  私は以前、出張は基本一人で行くことにしていましたが、昨年から、海外出張に若手の課長クラスを帯同させています。日頃から営業やサービスに直接関係している人ではなく、本社や工場で主に内勤の人です。会社のトップが現地の代理店とこのようなやり取りをしている、お客さまがこのような課題を抱えているなどを彼らに直接見てもらい、自分たちの仕事が間接的にではあるが、お客さまや代理店の仕事につながっていることを体験してもらっています。  残念ながら、社長時代にはあまり人財教育に時間を掛けられませんでしたが、今はなるべく教育に時間を割こうと考えています。教育と言っても、講師をしたりするだけが教育ではありません。なるべくオフィスや工場の現場に出向き、そこで働く従業員に声を掛け、ちょっとした気付きを話し合う。これも大事な教育だと思います。また、今年の4月から経験者採用向けの教育を充実すべく、日立建機の具体的な戦略や進むべき方向などを私自身の言葉で説明することを始めました。経験者採用の従業員は、さまざまなバックボーンを持った多彩な人たちで、我々のビジネスに大きく貢献してくれることを期待していますが、当社での経験が短く情報が不足しています。具体的な当社の事業方針を直接会社のトップが伝え、グループアイデンティティやKenkijinスピリット、経営戦略などの話をすることで、社員同士のベクトルを合わせることにつなげていきます。

 企業経営の立案においては、現中計の4つの経営戦略(顧客に寄り添う革新的ソリューションの提供、バリューチェーン事業の拡充、米州事業の拡大、人・企業力の強化)を基本にして、今後に向けて経営資源(人財、資金など)のリソース配分が大切です。お客さまの現場の課題を考えると、例えば機械の電動化や自動・自律化開発をさらに促進する人財が必要になっています。そのために日本で開発人財の強化も必要ですが、海外開発部門の強化が特に重要です。また資金に関しては、めりはりの効いた投資が重要です。例えば、北米での生産拠点をどうするかがあり、南米のマイニング事業のサービス拠点強化、グローバルなレンタル事業の展開など、何を優先するかが重要です。特に、レンタル事業は先々のサーキュラーエコノミーを視野に考えなくてはいけません。  日立建機は監督と執行が分離している指名委員会等設置会社であり、資本構成が変わって今まで以上に取締役会の意見が活性化していますが、同時に、ガバナンスの高度化を進めています。新たにビジネスユニット制を導入して、開発から販売、サービスまでを通して事業を行うようになりました。品質・安全もガバナンスの重要項目で、品質部門は2023年度から社長直属の組織として独立性を確保しており、2024年度からは安全衛生部門とコンプライアンス部門を独立させて、社長直轄の執行役員をつけました。まだ完成形ではありませんが、体制を変えながらガバナンスの実効性を高めていきます。  取締役会には3人の社内取締役(CEO,COO,CFO)がいます。戦略、実行、財務のトップが出席しており、議論の方向性や社外取締役の意見が執行役やその下の部門長にうまく伝えられています。執行が萎縮しないで成長戦略を計画できるように、活き活きさせることも私と社長の役割であり、バランスをとりながら議論を行っています。  2024年度の取締役会では、2023年度の実効性評価で課題として挙げられた、経営戦略・事業ポートフォリオのさらなる議論や取締役会のモニタリング機能向上に向けた取り組みなどの意見を参考に、一段と議論が活性化するように取り組んでいます。また過去に事業や投資を進めてきた内容に関して、うまく進めたこと、予定通り進められていないことに対して「なぜ」を議論することも重要です。まだ完全ではありませんが、常に「なぜ」を意識し、次の事業や投資にその課題を活かしスピード感を持って行動することが重要です。大きく世の中が変化する中で、バランス感を持つことが極めて大事です。  ガバナンスの高度化を考えた際に、私は売上収益1兆円を超えるには壁があると考えていました。売上収益1兆円規模ならば事業規模を維持する従業員、教育、規則などさまざまなコンビネーションでガバナンスを維持して対応可能ですが、1兆円を超えたことでガバナンスのさらなる高度化が必要です。私は売上収益1兆円から1兆5,000億円のレンジが、固定費の増加や業務の高度化などが求められて、組織運営が一番難しいと考えています。しかしこれを超えると安定化すると考えており、まさしく今が大事な時期です。  企業価値向上とガバナンスの高度化については、関係性が高いと考えています。業績の向上を図るのはもちろんですが、ビジョンの実現に向けて、お客さまや従業員、取引先も含めたステークホルダーの皆さまとの協創を図っていきます。2023年から役員報酬に譲渡制限付株式報酬制度を導入したことは株価を意識した経営の一端ですが、安全やコンプライアンス、品質など基盤の上で社会課題を解決し、企業価値の向上をはかることが重要です。  「第2の創業」ということで、我々日立建機は大きく一歩を踏み出しています。しかしさらに事業を拡大することはそう容易なことではありません。お客さまや従業員も含めたステークホルダーの皆さまおよび社会に認められ、その上でグローバルな事業展開を進めていきますので、今後とも日立建機グループの将来に、ご期待ください。