中期経営計画の4つの経営戦略を軸に米州独自展開とバリューチェーン事業を「深化」させ、新たな成長領域において「進化」します。そのすべての源泉が真のソリューションプロバイダーへの挑戦です。
代表執行役 執行役社長兼取締役 COO
先崎 正文
日立建機グループの企業文化としての強みは、Kenkijinスピリットにあります。私は1991年に日立建機に入社しましたが、 昔も今も変わっていないと感じることがあります。それはお客さまに貢献し、お客さまが喜んでいただくことに、喜びを感じる集団であることです。我々の貢献とは、提供するオレンジ色の機械のパフォーマンスやサービスです。我々の機械がお客さまにどう使われるか、安全性・生産性にどのように貢献できるのかを皆で考えています。私たちの行動規範であるKenkijinスピリットは世界共通のキーワードとして、「Challenge(チャレンジ精神)」「Customer(個客志向)」 「Communication(風通しの良さ)」で3つの「C」があります。 ここでお客さまを中心に置き、それぞれのKenkijinが使命に基づい たチャレンジを繰り返し、良いコミュニケーションで力を発揮しています。これは、全Kenkijinが同じ価値観で仕事ができている成果だと私は考えており、企業文化や組織風土の強みになっています。
社長COOの役割・責務は企業価値の向上を実現することであり、具体的な道筋は現中期経営計画に集められています。私は「最前線がすべての源である」と考えており、現場と現実を重視する経営をモットーにしています。その実行を確実にするために、社長就任以降に直接現地のKenkijinと現場でコミュニケーションをすることで会社方針の徹底に努めてきました。なぜグループアイデンティティが必要なのか、 中計の必要性などを含めて延べ30回以上、タウンホールミーティン グや現地での会議で伝えてきました。対話が実際にスタートすると、Kenkijinにうまく内容が伝わらずに、理解してもらうことの難しさも感じました。ただ、日立建機はオープンで自由な会社です。チャレンジや努力を重視しながら、できないことはできないと言い、活発なコ ミュニケーションで基本と正道の中において、解決策を見つけ出すことが貴重で重要であるという文化があります。我々はリアルを重視する文化もあり、ここでは双方向が重要です。これが、真のKenkijinスタイルと私は確信しています。
日立建機グループのビジョン「豊かな大地、豊かな街を未来へ 安全で持続可能な社会の実現に貢献します」の達成には、全Kenkijinがお客さまの課題に共感して、その課題を解決することが自分自身の使命であるという強い想いが必要です。それには、CIF(Customer Interest First: 顧客課題解決志向)の姿勢を持ち、その行動ができることこそが、強い企業文化の形成になります。ここでは、第2の創業で制定したグループアイデンティティに基づいて、日立建機グループの存在意義に立ち返り、皆で行動をすることが、真のソリューションプロバイダーにつながります。私自身、世界中のお客さまと接する営業やサービスの前線、製造の前線での経験があり、お客さまや代理店、約26,000 名のKenkijinの課題が実感できています。すなわち、会社としての方向性をビジョンに沿って、経営判断することができると考えています。
現中期経営計画「BUILDING THE FUTURE 2025 未来を創れ」の1年目は、良好な実績を持って終わることができました。その理由は、我々の成長ドライバーである、米州・マイニング・バリューチェーン事業が好調であったためです。その3つが全体業績を牽引したことに加えて、アジア・インド・アフリカなどで強い市場をより強くして、コンストラクションビジネスユニットやコンパクトビジネスユニットの商品と製品で下支えができました。
現中計は「継承と進化」をキーワードにしており、成長を続けるバリューチェーン事業や、大きく扉を開いた米州事業などの成果を「継承」して発展させるとともに、新たな成長にチャレンジして「進化」させることが重要なテーマです。4つの経営戦略の柱「顧客に寄り添う革新的ソリューションの提供」「バリューチェーン事業の拡充」「米州事業の拡大」「人・企業力の強化」を軸にしており、「真のソリューションプロバイダー」への成長を果たすことが必要です。
ここでの課題は、新たな成長にチャレンジして「進化」できるかに掛かっています。新たな成長へのチャレンジ、すなわち「進化」が次のテーマです。当社グループは、カーボンニュートラルという大きな社会的要請の中、欧州地域で先行して電動ショベルの開発・販売を始めています。豊かな大地・豊かな街を創り出す建設機械は油圧を必要としますが、その動力源が化石燃料型エンジンから電気やCO₂排出の無い水素に代わる時代に我々は直面しています。元々エンジンの開発・生産を行っていない当社は、より時宜を得たパートナー企業との連携や、競争環境を利用した中で、お客さまの価値を最大にできるよう進めていきます。そんな中、当社グループは多くのパートナーの協力を得て、欧州地域で先行して電動ショベルの開発・販売を始めていますが、建設土木業界全体としての普及率は高くありません。これは実際の建設現場には、ハードだけを提供しても解決できない課題が多く存在しているからです。そこで、パートナー企業と協創し、ハード だけではない顧客課題を解決する手段を研究する場として、新たなソリューション研究拠点「ZERO EMISSION EV-LAB」を千葉県市川市に開設しました。
新たなチャレンジに対しては、失敗を許容する企業文化があるということも重要です。その継承のため、新しい取り組みを行っています。 2023年から価値創造のノウハウを学ぶ場として「日立建機グループビジネスコンテスト(KβC)」でKenkijinの持続的な挑戦を推奨することで、企業文化の変革と新規事業の事業化を促進しています。再生事業は技術的に未知の点も多かったのですが、建設機械本体を自社の技術で再製造することにチャレンジしました。コスト的には厳しかったものの、ここまでできるという気づきがありました。再生事業は2030年度に再生部品の取扱量を増やすことで売上収益800億円をめざしています。2024年度中に兵庫県にある播州工場に集約・統合し、再生のマザー工場として、グローバル連携を強化します。これは、我々が標榜するサーキュラーエコノミーの資源循環型ビジネスの実現につながります。
米州事業とバリューチェーン事業の成果を「継承」して、発展させるため2025年度のKPI(重要業績評価指標)を掲げています。米州は自分たちで新たに切り拓くべき市場として、他社にはない独自の成長ストーリーの中核です。今期は2025年度の米州独自展開による売上収益3,000億円をめざして、その成長を確実にする施策を打っていきます。その一つが、マイニング事業です。北米でシェアの拡大とともに、今までほとんど浸透ができていなかった南米の展開が必要です。ここでは営業・サー ビス拠点の拡大に加えて、ダンプトラックの生産工場として、カナダの日立建機トラックや北中南米に拠点網を持つ部品再生工場のH-E Parts社、鉱山プロセス中の選鉱領域に強いBradken社、そして鉱山全体のサイトマネジメントシステムを提供するWenco社を有機的につなげることで、ダンプトラックの販売拡大をはじめとするマイニング事業拡大を図ります。米州の自社活動の再開に対しては、「やっと来てくれたか。20 年間待っていたよ」という、うれしく、重い言葉をたくさん頂きました。この言葉に報いるように、お客さまや代理店との繋がり、協創関係を作っていきたいと思います。米州代理店へは販売チャネルの多様化、ファイナンス事業の拡充も進めています。バリューチェーン事業は2025年度に売上収益比率50%超(2024 年 3 月期:39%)をめざしていますが、その後にどの様な方向性を新たに示すかが重要です。バリューチェーン比率は事業の安定性を高める指標の一つであり、景気に影響されやすい事業環境の中で業績の安定 性を測る指標ですが、これだけが高ければ良いというわけではありません。新車販売次第で比率が低下するケースもあるため、絶対値である金額のKPI設定も検討しています。収益を安定させた先には、当社の製品やソリューションを選んでいただくお客さまの拡大を見込んでいます。
当社は2024年7月に、当社グループの想いの証として、ニューコンセプト「LANDCROS」を制定しました。これは、2023年4月に発表したグループアイデンティティを議論した際に、日立建機が進むべき方向を一言で表すシンボリックな言葉を広く意見を求め、さまざまな「想い」を集約したニューコンセプトの策定にも取り組んできたものです。この言葉には、あらゆるステークホルダーに革新的ソリューションを提供し、ビジョンである豊かな大地、豊かな街を未来へつなげる役割を担いたいという強い想いを込めています。この「LANDCROS」の旗印のもと、真のソリューションプロバイダーをめざしてまいります。