株式会社加藤組
広島県三次市
取締役土木部長
原田 英司 氏
会社概要
建設業には「夢」がある。ふるさとの風景をつくり、災害時にも身近な人たちが暮らす街を守る。それができるのが建設業だ。同社はそんな、夢ある建設業というスタンスで、創業以来80年以上にわたり挑戦を続けてきた。歴史と実績を積み重ねると同時に、これまでの常識に囚われない新たなことにも積極的にチャレンジしている。その取り組みは、建設現場にICT技術を導入した革新的な取り組みを評価する「i-Construction大賞(平成30年度)」の中でも、最も優秀な1団体だけに贈られる「国土交通大臣賞」を受賞という形で評価されている。今後も「街づくりのミライを動かす企業」をめざしていく。
PRISMプログラムに選定
国土交通省は、建設現場の生産性向上をめざすi-Construction と、統合イノベーション戦略による「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」を2018年度から開始した。これは、同年度に内閣府が創設した制度「官民研究開発投資拡大プログラム(Public/Private R&D Investment Strategic Expansion PrograM:PRISM)」の一環である。
加藤組は、同社が広島国道事務所から受注した「安芸バイパス寺分地区第3改良工事」において、第5世代移動通信システム(5G)等を活用して土木又は建築工事における施工の労働生産性の向上を図る技術として応募、採択された。
このプロジェクトでは、同工事のなかで複数の建設機械を操縦できる「マルチ遠隔操縦技術」の研究開発を行う。この遠隔操縦装置にAR(Augmented Reality:拡張現実)技術を導入し、建機の操縦性の向上をめざしている。また、5Gを活用することで、長距離遠隔操縦を実現する取り組みだ。
長距離遠隔操縦
プロジェクトは、①油圧ショベル、ブルドーザー、振動ローラーの3台の建機を遠隔で操縦できる装置の開発・導入 ②遠隔操縦オペレーター向けに高品質な映像とARを利用した操作支援 ③長距離遠隔操縦無線通信システムによる「働き方改革」の実現、の3点で構成している。
具体的には、帯域の広い通信技術を使って、現場から約3キロ離れたマンションに設置した1台の「マルチコックピット」から、操作方法が異なる3台の建機を切り替えながら操縦することをめざす。
なぜ、こうした技術をめざすことになったのか。原田部長は「われわれの会社が受注する規模の工事では、種類の異なる建機を同時に動かすことはほぼない。各建機が順番に施工するので、オペレーターは1人でよいことが多い。逆に新規入職者が少ない現状では、オペレーターを3人集めることが困難で切実な問題になっている。この技術で課題解決したいと考えた」と話す。
最近では災害も頻繁に発生するようになっている。「遠隔操縦ができれば、オペレーターが安全に施工できるようになる。今回のマルチコックピットは、キャンピングカーからスタートし、次にコンテナ収納型となった。その後改良を重ねて現在の形になった。災害時の可搬性も考慮している」。現在のマルチコックピットは、現場事務所・宿舎として借りたマンションの一室に置かれている。マンションは、現場から見通しが効く場所にあり、現場とは25GHz帯の無線で接続している。現場内の無線親局と建機との接続は日立建機のSolution Linkage Wi-Fi(SL-Wi-Fi)の無線LANが担う。
遠隔操縦建機には、簡単に取り外しが可能な「操作レバーアクチュエーター」、アクションカメラ、俯瞰カメラが取り付けられており、システムを装着したままでも人が乗り込んで操作できるのが特徴。SL-Wi-Fiは、各建機に無線子機を取り付け、映像や操作信号などの通信を担当している。
原田部長は、「日立建機日本をはじめ、皆でプロジェクトを進めて良いところに落ち着いた。いろいろな課題も解決でき、実用レベルにまで達している」と現状を分析する。
普及が大切
「ICTに対する当社の取り組みは、市場に出ている技術をうまく活用することが特徴。一から開発を行うといろいろなハードルが上がってしまうが、すでに市販されていれば、当社以外の建設会社にも普及しやすい。だから、当社の取り組みは他社にも隠さず教えている。われわれは、さらに先の技術を追い求めていく」と、原田部長は建設業界全体の解決策としてプロジェクトを捉える。
加藤組の取り組みは現場だけにとらわれていない。広島大学が2020年4月1日から導入したネーミングライツ制度第1号として、施設命名権を取得した。第1号施設となった同大学の東広島キャンパスEastArea工学部実験棟C1の「おもしろラボ」は、同年10月1日から「KΛTO OMOSHIRO LAB」になった。
加藤組は、施工プロセスの全てを一貫して自社施工できる体制を整え、ICTを積極的に活用する考えだが、その技術を活用する人材育成にはかなりの時間が必要だ。ワクワクするような楽しい場所を創造するために、魅力ある建設業界を構築し、生産性を向上させ、新規入職者の拡大につなげていきたいと考えている。